大阪大学21世紀COEプログラム 究極と統合の新しい基礎科学 実績報告書

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事業推進担当者の活動報告 > 東島 清 理学研究科物理学専攻・教授
東島 清 理学研究科物理学専攻・教授 写真

場の量子論における対称性とその破れ

東島 清  理学研究科物理学専攻・教授

役割/新カリキュラム「現代社会と科学技術」担当

1.研究活動

 クォークやレプトン等の素粒子の世界を記述する言葉は、相対性理論と量子力学を融合した場の量子論と呼ばれる法則であり、空間の各点にある場の量子ゆらぎが粒子を表し、場の古典的な振動が波に対応している。場の量子論は、粒子と波と力を統一した理論であり、人類がこれまでに到達した最高の力学形式だが、アインシュタインの重力理論だけは統一されていない。すべてを統一する究極の力学形式として超弦理論が考えられているが、未だ完成していない。私は場の量子論の多様な可能性を調べることにより、素粒子の質量や対称性などの基本的問題を追求している。また、場の量子論の立場から超弦理論の可能性について考察している。

1) 2次元超対称非線形シグマ模型の研究

 非線形シグマ模型は、場が曲がった空間上に値をとる理論であり、球面上の非線形シグマ模型などがよく知られている。このような理論はそれ自身で場の量子論の研究対象として興味深いが、中でも2次元時空上の非線形シグマ模型は、曲がった空間上を運動する弦場の量子論における対称性とその破れ模型を記述するので、特に重要である。図1のように1次元的に広がった弦が曲がった空間(ターゲット空間)上を運動する様子を時間も入れて考えると、τとσで張られる2次元の世界面上で定義された非線形シグマ模型と見なすことができる。

 超弦理論との関連において、とりわけ重要なのは2次元上の場の理論としてみたときに、2種類の超対称性を持つ超対称非線形シグマ模型である。元々2次元面上のτとσは勝手に導入したものであることを反映して、τとσの尺度を取り替える変換(共形変換)に不変でなければならない。私たちはこの条件を後に触れるウィルソンくりこみ群の方法で調べ、場が異常次元を持つときにはリッチ平坦でない多様体が許されることを示したが、多様体が2次元の場合にはWittenのブラックホール解(図2に示すような葉巻状の空間)に一致することが分かった。

  • A New Class of Conformal Field Theories with Anomalous Dimensions, Kiyoshi Higashijima and Etsuko Itou, Progress of Theoretical Physics, 109 (2003) 751−764.
  • Unitarity Bound of the Wave Function Renormalization Constant, Kiyoshi Higashijima and Etsuko Itou, Progress of Theoretical Physics, 110 (2003) 107−114.
図1 図2
2)くりこみ群の研究

 自然界では無数の粒子が生成消滅を繰り返しており、総ての自由度を一度に考慮すれば、到底人間が自然を理解することができるとは思われない。しかし、幸いにして我々は自然界の総てのスケールを同時に見ることはできない。そこで着目するスケールの世界に特徴的な変数だけを用いた有効理論によって自然を記述する。特に、有限個の変数だけを含む有効理論で、そのスケールに特徴的な現象を説明できたときに、自然現象を本質的に理解したと考える。このように、無限個の変数の中から自然を理解する上で本質的な変数だけを残し、興味のない変数を消去してしまう操作を「くりこみ」と呼ぶ。消去した自由度の効果が、残された理論のパラメーターに繰り込まれるからである。特に、ミクロ変数を消去する際に、マクロ理論の有限個のパラメーターだけに繰り込むことができる場合にくりこみ可能と呼ぶ。このように、くりこみ可能性が人間が自然を理解できることと密接に関わっているように思われる。

 朝永振一郎氏は量子電気力学という特定の理論において、質量と電荷がスケールによりどのように変化するかを論じたが、私たちのもくろみは無限個のパラメーターを持つミクロ世界の一般的場の理論から出発して、どのようなマクロ理論が出現するのかという、スケールによる理論の移り変わりを研究することである。

 数ある場の量子論の中でも、現在の素粒子論は摂動論的にくりこみができる理論を使って組み立てられている。もし上のような方法で非摂動的にくり込みができる理論が存在することが分かれば、現在の素粒子論の枠組みは大きく変わる可能性がある。

 私たちはウィルソンくりこみ群の方法を用いて3次元非線形シグマ模型に対する非摂動くりこみ群方程式を導いた。得られたくりこみ群方程式の固定点理論を解析し、場の異常次元がー1/2の場合は、アインシュタイン・ケーラー多様体が紫外固定点の理論になることを見いだした。一方、場の異常次元がー1/2からずれると、場が値をとる空間は円錐のように尖った点を持ち、対称性の低い特異な空間になることが分かった。その尖り方は、異常次元がー1/2からずれるほど大きくなる。

 非摂動くりこみ群では、理論の紫外カットオフを無限に大きくするにつれて、理論のパラメーターを紫外固定点近づけることによりくりこんだ理論が得られる。従って、紫外固定点の存在がくりこみ可能性の証明になるが、傍証としてラージN展開法が適用できる場合に、その方法で具体的にくりこんだ理論を構成した。

 摂動論でくりこみができない場合でも、非摂動的にくりこむことができる理論が存在することは間違いないであろう。従って、高次元ゲージ理論や重力理論などが非摂動的にくりこむことができる可能性が出てきたが、これは今後の課題である。

  • Three Dimensional Nonlinear Sigma Models in the Wilsonian Renormalization Method, Kiyoshi Higashijima and Etsuko Itou, Progress of Theoretical Physics, 110 (2003)563−578.
  • Wilsonian Renormalization Approach to Nonlinear Sigma Models, Kiyoshi Higashijima and Etsuko Itou, Progress of Theoretical Physics Supplement No.164 (2006) 103−108.
  • Three dimensional conformal sigma models, Takeshi Higashi, Kiyoshi Higashijima and Etsuko Itou, Progress of Theoretical Physics, 117 N0.6 (2007) 1139−1156.

2.教育活動

 この5年間で大学院博士後期課程の大学院生5名が理学博士の学位を取得した。

  • 木村哲士/“Zero-mode spectrum of elevendimensional theory on the Plane-wave background”(平成16年3月)
  • 大西 拓/“Open-String Interactions in Closed-String Field Theory”(平成16年3月)
  • 伊藤悦子/“The non-perturbative analyses of lower dimensional on-linear sigma models”( 平成17年3月)
  • 前田高志/“The Gauge/Gravity Correspondence and Random Plane Partition”( 平成18年3月)
  • 東 建志/“Wilsonian renormalization group approach to three dimensional nonlinear sigma models”( 平成20年3月予定)

3.特記事項

 意欲的な学部学生の能力を更に引き出すために、文部科学省の支援を受けて、平成19年度より大阪大学理学部において「理数オナープログラム」を開始した。