大阪大学21世紀COEプログラム 究極と統合の新しい基礎科学 実績報告書

contents
#
事業推進担当者の活動報告 > 細谷 裕 理学研究科物理学専攻・教授
細谷 裕 理学研究科物理学専攻・教授 写真

標準理論を超える素粒子物理:ゲージ場とヒッグス場の統合理論

細谷 裕  理学研究科物理学専攻・教授

役割/事業推進担当

1.研究活動

 電弱相互作用などの素粒子の統一理論の構成にはヒッグス場が不可欠である。近い将来、このヒッグス粒子がLHC で発見されると予想され、その相互作用を調べることで大きなゲージ対称性がどのように小さなゲージ対称性に壊れていくかが明らかになるだろう。この歴史的局面に立ち向かい、素粒子の統一理論としてゲージ・ヒッグス統合理論を提唱し、展開した。我々の世界には4次元時空だけでなく、5次元、6次元という目に見えない次元があり、余剰次元での量子効果により対称性が破れ、我々が観測する世界になるとする。1983年に発見したこの対称性の破れのメカニズム「細谷機構」はヒッグス機構にとってかわる。この細谷機構を素粒子の電弱統一理論に適用した。4次元のヒッグス場は高次元のゲージ場として統合される。国際会議での招待講演は15件(内基調講演1件)であった。

1) 大統一理論と電弱理論における細谷機構

  新粒子の発見と相互作用の統合が素粒子物理学の発標準理論を超える素粒子物理:ゲージ場とヒッグス場の統合理論展を支えてきた。高い対称性のもとに電磁相互作用、弱い相互作用、強い相互作用は統一される。しからば、対称性の破れ方を理解することが統一理論を構成する鍵となる。

 現在の素粒子の標準理論では、ヒッグス機構により電弱対称性が自発的に破れると想定されているが、実験的確認はまだなされていない。超弦理論により存在が示唆されている高次元時空のなかでは、細谷機構と呼ばれる新しい対称性の破れのメカニズムがある。余剰次元におけるアハロノフ・ボーム効果でゲージ対称性が破れ、ヒッグス粒子はゲージ場の一部分となる。

 5次元のオービフォルド上のゲージ理論を考えることで、このアイディアをSU(5) 大統一理論に適用し、どのような条件でSU(5) 対称性が量子効果でSU(3)×SU(2)×U(1)に破れ、ヒッグス場の性質がどのように決まるかなどを明らかにした。カイラルなクォーク・レプトンはオービフォルド上で自然に実現される。

 更に、この細谷機構を電弱理論にどのように埋め込むかを示した。図1(a) は、このときのアハロノフ・ボーム位相の有効ポテンシャルで、最小点で電弱対称性が電磁対称性にまで壊れることを示している。具体的なモデルを構築した点で意義が深い。

  • “Dynamical Rearrangement of Gauge Symmetry on the Orbifold S1/Z2”, N.Haba, M.Harada, Y.Hosotani and Y. Kawamura, Nucl. Phys. B657 (2003) 169−213
  • “Dynamical Symmetry Breaking in Gauge-Higgs Unification on Orbifold”, N.Haba, Y.Hosotani, Y.Kawamura and T. Yamashita Phys. Rev. D70 (2004) 015010−(1−12).
  • “Dynamical Gauge-Higgs Unification in the Electroweak Theory”, Y.Hosotani, S.Noda and K.Takenaga Phys. Lett. B607 (2005) 276−285.
2)電弱理論のワープ空間におけるゲージ・ヒッグス統合

 平坦な時空でのゲージ・ヒッグス統合ではヒッグス質量やKaluza-Kleinスケールが小さくなり過ぎるという困難があるが、曲がった時空のRandall-Sundrum ワープ空間ではこの困難が自然に解決することを示した。Randall-Sundrum ワープ空間は、負の宇宙項をもった5次元のanti-de Sitter 空間が両端で4次元膜(brane)にはさまれている構造をもっている。4次元空間で現れるゲージ場は5次元全体にひろがり、ヒッグス場は一つの膜(TeV brane)付近に局在する。軽いクォーク・レプトンはもう一つの膜(Planck brane)付近に、トップ・クォークはTeV brane 付近に局在する。

 ヒッグス粒子の質量がちょうどLHC 実験で観測されるエネルギー領域に予言されることは興味深い。更に、図1(b) で示されているように観測されているクォーク・レプトンの質量スペクトルの大きな階層性も自然に説明できること、また、ヒッグス粒子のWボゾンやZボゾンへの結合が小さくなり、近い将来、LHCで検証可能となる。

 電弱相互作用における対称性の破れの起源として、標準理論や超対称性理論におけるヒッグス機構に代わるものとして細谷機構を導入し、ヒッグス場の物理に新しい見方を与える点で大きな意味がある。

(a) (b)
図1
a:アハロノフ・ボーム位相の
有効ポテンシャル。
b:ワープ空間でのクォーク・レプトンの
質量スペクトル。
  • “Higgs Boson Mass and Electroweak-Gravity Hierarchy from Dynamical Gauge-Higgs Unification in the Warped Spacetime”, Y.Hosotani and M.Mabe, Phys. Lett. B615 (2005) 257−265.
  • “Gauge-Higgs Unification and Quark-Lepton Phenomenology in the Warped Spacetime”, Y.Hosotani, S.Noda, Y.Sakamura and S.Shimasaki, Phys. Rev. D73 (2006) 096006−(1−16).
  • “WWZ, WWH, and ZZH Couplings in the Dynamical Gauge-Higgs Unification in the Warped Spacetime”, Y.Sakamura and Y.Hosotani, Phys. Lett. B645 (2007) 442-450.
  • “Anomalous Higgs Couplings in the SO(5)×U(1)B−L Gauge-Higgs Unification in Warped Spacetime”, Y.Hosotani and Y.Sakamura, Prog. Theoret. Phys. 118 (2007) 935−968.
3)高次元場の理論の基礎の研究

 今後、高次元空間での場の理論は大きな意味を持ってくるだろう。今までは単に摂動論的に繰り込み可能でないというだけで見過ごされてきた。しかし、超弦理論ではもともとは10次元時空から出発するが、中間的に5次元、6次元時空の有効理論が出現し、最終的に4次元時空が実現されると考えられる。この見地から高次元場の理論の基礎を研究した。特に、6次元のゲージ理論では新しいモノポール解が存在すること、また、ゲージ・ヒッグス統合でのヒッグス粒子の質量は2ループのレベルでも有限になることを示した。

  • “Generalized Monopoles in Six-dimensional Non-Abelian Gauge Theory”, H.Kihara, Y.Hosotani and M.Nitta, Phys. Rev. D71 (2005) 041701−(1−4).
  • “Two Loop Finiteness of Higgs Mass and Potential in the Gauge-Higgs Unification”, Y.Hosotani, N.Maru, K.Takenaga and Toshifumi Yamashita, Prog. Theoret. Phys. 118 (2007)1053−1068.

2.教育活動

 この5年間で大学院博士後期課程の大学院生4名が理学博士の学位を取得した。

  • 佐藤松夫/“Effective Actions of D-brane and M-brane as On-shell Actions of Supergravity”(平成16年3月)
  • 木原裕充/“Six-dimensional Solitons and Matrix Models”(平成17年3月)
  • 津村浩二/ New Physics Search via the Higgs Boson”(平成19年3月)
  • 野間 唯/“Wilson Loops in Five Dimensional Cohomological Field Theories”(平成20年3月予定)

 社会に対する教育啓蒙活動として、2005年、2006年、2007年、「最先端の物理を高校生に Saturday Afternoon Physics」を大阪大学にて組織、主催した。これは、高校生を対象に、10月から11月にかけて6週間、毎土曜日3時間にわたり最先端の物理から応用まで実験デモを含めて紹介する学校で、毎回150人ほどの高校生が自主的に集まった。社会に基礎科学の基盤を築き、社会に対する責任のある若い研究者を育成する上でも重要なプログラムである。

3.特記事項

 「細谷機構の発見」の功績により2007年度第53回仁科記念賞を受賞した