大阪大学21世紀COEプログラム 究極と統合の新しい基礎科学 実績報告書

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事業推進担当者の活動報告 > 岸本  忠史 理学研究科物理学専攻・教授
岸本 忠史 理学研究科物理学専攻・教授 写真

ミューオン、ニュートリノ、K中間子を用いた高精度フロンティアの素粒子物理の研究

岸本  忠史  理学研究科物理学専攻・教授

役割/事業推進担当

1.研究活動

1) 48Caの2重ベータ崩壊の研究

 我々の宇宙は物質だけで構成されていて、反物質は存在しない。これは宇宙が膨張によって冷える過程で粒子数の保存則と、CP の破れで粒子(物質)が〜10−10だけ多く残ったためと考えられている。鍵は粒子数の破れで、それは現実にはニュートリノを出さない0ν2重ベータ崩壊の研究でのみ検証可能である。我々は48Ca の2重ベータ崩壊の研究を進めている。48Ca は全ての2重ベータ崩壊原子核の中で最大のQ値を持つので本質的に放射性バックグランドに強く、最も有望な原子核である。

 奈良県大塔村の旧国鉄のトンネル内にCaF2検出機を中心とするELEGANT VI検出器を設置し観測を行った。48Ca の2重ベータ崩壊に関して世界で最も感度の高い測定が出来た。

  • Search for neutrino-less double beta decay of 48Ca by CaF2 scintillator, I.Ogawa et al., Nucl. Phys. A730, 215 (2004)

 本研究は48Ca では最も感度が高いが、粒子数の破れを示すニュートリノのマヨラナ質量に対しては76Ge の測定に及ばないので、次世代検出器としてCANDLES計画を推進している。CANDLES 検出器はCaF2 結晶を液体シンチレーターに沈めるデザインで、結晶中の48Ca からの2重ベータ崩壊が発するシンチレーション光を光電子増倍管(PMT)で検出する。更に液体シンチレーターとCaF2 結晶の発光の崩壊時間に2桁の違いがあることを利用して信号とバックグラウンドの識別を行い、高感度測定を実現する。

 図1に昨年度までの科研費基盤研究(S、A、B等)の支援で阪大理学部に建設したCANDLES III検出器の写真を示す。現在CaF2 結晶を200kg インストールし、地上での測定を進めている。今までの観測で予定通りの性能が出ている事が確認できた。今後測定を続けながら詳しい特性を確認していく。実際の高感度測定は放射性バックグランドの少ない地下の実験室で行う必要がある。東大宇宙線研究所の神岡地下実験施設に新設される実験室に設置が認められ、新しい実験室の掘削も進んでいる。現在は300kg 程度の検出器を地下に設置する予定である。次のステップとして3トンの検出器の準備も始めている。そこで発見の可能性もあるが、更に48Ca の同位体濃縮も研究している。21世紀物理学で最大ともいえる発見に繋げたい。

図1 CANDLES III検出器の写真。左がPMT(直径13'' と15'' の2サイズ)で、
右が10cm 立方のCaF2結晶が60個インストールされた様子である。
CaF2結晶は蛍石として知られる宝石であるので、綺麗に光っている様子が確認できる。

 
 なお2005年にハワイで、2007年に大阪で2重ベータ崩壊とニュートリノ質量に関する日米国際ワークショップを開催した。ハワイでは80名程度、大阪では60名程度の参加者であった。代表は日本側が岸本、米国側はDUSEL 代表のKevin Lesko 氏である。

 なおELEGANT VI検出器で測定されたデータは同時に宇宙のダークマターに関する知見も与える。CaF2 検出機中の18F はダークマターの最有力候補であるニュートラリーノとの断面積が大きいので、探索に最適である。現在解析を進めている。

2)ストレンジネス核物理の研究

 中性子星の状態方程式の関連でK中間子原子核の相互作用の研究を進めている。K中間子凝縮があれば、中性子星の質量の太陽質量の1.4倍程度になっていることがブラックホールとの関係で説明出来る。このためにはK中間子と核に強い引力が働いていることが条件である。この研究をKEK で(K、N)反応を用いて進めた。主モードに関する解析は終わり、ポテンシャルを深さは約200MeV であることが確認できた。これは中性子星の密度が原子核密度の3倍程度のK中間子の質量程度の深さを持つことになり、K中間子凝縮が実際に起こりえる事を確認したものである。この結果を最近出版した。

  • Kaon-Nucleus interaction studied through the in-flight (K−, N)reaction, T. Kishimoto et al., PROGRESS OF THEORETICAL PHYSICS 118, 181 (2007)

 最近発見されたペンタクォークは理論的にも解釈が難しい。我々はK中間子とπ中間子の間に強い引力がある可能性を提案している。KEK で検証する実験を行い、解析中である。またSPring8でも実験を行った。大阪大学核物理研究センターで、弱相互作用でストレンジクオークを直接生成するpn →Λp 反応の測定の為の基礎研究を進めている。断面積は〜10−39cm2と小さいとため、膨大なバックグランドから信号を取り出す実験技術への挑戦である。現実的なステップとしてπ+π対の測定を進めている。カイラル対称性の破れが強い相互作用の本質なら、核物質中ではその部分的回復が起こり、σメソンがπ+π対として閾値領域に見えてくる。

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図2 K中間子が原子核との強い引力で、束縛状態が非常に
強く生成されていることを示すスペクトル。

 J-PARC の運転開始が近づいて来た。2重荷電交換反応で中性子の多いハイパー核を生成する実験と弱崩壊の研究のプロポーザルが採択された。実験に向けて実験装置の建設等の準備を進めている。荷電交換反応実験は技術審査もパスした。

2.教育活動

 この5年間で大学院博士後期課程の大学院生4名が理学博士の学位を取得した。なお平成20年3月に2名取得予定である。

  • 住浜水季/“Photon beam asymmetries for the p(γ, K+)Λ, p(γ,K+0 reactions at SPring-8/LEPS”(平成15年3月)
  • 梅原さおり/“Study of Double Beta Decays of 48Ca with CaF2 Scintillators”(平成16年3月)
  • 南 志都/Weak Production of Λ Hyperon by the p+n → p+Λ reaction”(平成16年6月)
  • 早川知克/“Study of Kaonic Nuclei by the in-flight(K, N) reactions”(平成19年3月)

3.特記事項

 2重ベータ崩壊の研究は、ニュートリノが質量をもつことが分かった段階で世界的にも最重要テーマと位置づけられるようになり、米国ではNSF が500億円を投じてDUSEL をスタートさせる。その審査を手伝った。ストレンジネス関係ではJ-PARC の実験の開始が直近に迫っている。