大阪大学21世紀COEプログラム 究極と統合の新しい基礎科学 実績報告書

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事業推進担当者の活動報告 > 山中  卓 理学研究科物理学専攻・教授
山中 卓 理学研究科物理学専攻・教授 写真

K中間子、B中間子を用いた素粒子の対称性の破れの研究

山中  卓  理学研究科物理学専攻・教授

役割/事業推進担当

1.研究活動

 物質を構成する基本となるクォークやレプトンなどの素粒子には、それぞれ電荷が反対の反粒子が存在する。これらの粒子と反粒子は宇宙のビッグバンとともに同じ数ずつ作られたが、その後宇宙が冷えるとともに粒子と反粒子は対消滅をし、光子になった。しかし、その過程で粒子と反粒子の数のバランスがわずか(約10−9)にずれ、対消滅の後も粒子が残り、宇宙の物質を形成した。

 粒子と反粒子の間の対称性の破れ(CP の破れ)は現在、sクォークを含むK中間子や、bクォークを含むB中間子で観測されている。素粒子の標準理論は、これらが弱い相互作用におけるクォークの混合によって起きると説明しており、これはかなり確からしくなった。しかし、標準理論だけでは宇宙に物質を作るのに十分な対称性の破れを作ることができない。従って、標準理論を超えた新たな物理による、粒子・反粒子の対称性の破れがあるはずである。そのために、CP 対称性の破れについて標準理論の精密な検証を行うとともに、新たな物理の寄与を探る研究を推進して来た。

1)米国Fermilab KTeV実験

 CP の固有値がそれぞれほぼ−1と+1のKL とKSが、CP の固有値が+1であるπ+πとππに崩壊する4つの分岐比の二重比を精密に測定し、崩壊の過程でCPが破れる直接的なCPの破れを7シグマの有為さで示した。これにより、30年以上可能性として続いて来た超弱モデルを完全に棄却し、標準理論の正しさを確立した。

 また、KL の6つの主な崩壊モードの分岐比を精密に測定した結果、過去の値が最大8%ずれていたことを示した。また、新しく求めた分岐比より、弱い相互作用におけるs→uクォーク混合のパラメータを求め、クォーク混合行列のユニタリティー性が成り立っK中間子、B中間子を用いた素粒子の対称性の破れの研究ていることを示した。

 KL →πeνee 崩壊を初めて観測し、その崩壊分岐比を求めた。また、この崩壊の性質から、カイラル摂動理論が正しいことを示した。

  • “Measurements of Direct CP Violation, CPT Symmetry, and Other Parameters in the Neutral Kaon System”, A.Alavi-Harati et al., Phys. Rev. D64, 012005−1〜33 (2003).
  • “A Determination of the Cabibbo-Kobayashi-Maskawa Parameter |Vus| Using KL Decays”, T.Alexopoulos et al., Phys. Rev. Lett. 93, 181802−1〜4 (2004).
  • “Measurements of KL Branching Fractions and the CP Violation Parameter |η±|”, T.Alexopoulos et al., Phys. Rev. D70, 092006 (2004).
  • “First Observation of KL→π+eνe+e”, E.Abouzaid et al., Phys. Rev. Lett. 99, 081803 (2007).
2)KL →π0νν崩壊実験

 KL →π0ννの崩壊分岐比を測定すると、CP 対称性の破れを生むクォーク混合行列の複素成分の大きさを正確に求めることができる。さらにこの崩壊には標準理論を超える物理も寄与できるため、測定結果がB中間子の結果とずれていれば、新しい物理の存在を示すとともに、そのフレーバーの構造を探ることができる。標準理論の予測する分岐比は3x10−11であるのに対し、過去の上限値は我々がKTeV 実験で求めた<5.9x10−7であった。そこで、まずこの崩壊を観測し分岐比を求めるためには、段階的に実験を進めて行く必要がある。

 まずKEK の12GeV 陽子加速器を用い、KL →π0ννに特化したE391a 実験を行った。まず1週間分のデータを解析し、KTeV の結果を3倍改善した。さらに2007年末にはさらに3倍改善する<6.7x10−8の結果を発表した。

 さらに感度を上げるために、東海村で建設中のJ-Parc 大強度加速器を用いる実験を計画し、提案した。21世紀COE の特任助教の山鹿は初期の計画に重要な役割を果たした。まず第1段の実験E14は、ビームラインを新設し、E391a 実験装置を移設するが、電磁カロリメータをKTeV 実験のものに取り替え、波形を読み出す回路を新しく取り入れ、新たなガンマ線検出器を導入する。現在、2009年秋のビームタイムをめざして実験の準備を行っている。

  • “New Limit on the KL →π0νν Decay Rate”, J.K.Ahn, et al., Phys. Rev. D74, 051105(R)(2006).
KEK E391a 実験装置
3)B中間子実験

 KEK のBelle 実験では、電子と陽電子を衝突させてΥ(4s) の共鳴状態からB0と反B0の対を作り、それらの崩壊の時間分布を比較することにより、CP 対称性の破れを研究している。2005年度までに生成した3.86x108のBB−bar 対のうち、Belle グループはJ/ψK0への崩壊を用いて、CP の破れの大きさを表す角度についてsin2φ1=0.652±0.039±0.020の結果を得た。また、φ1の4つの可能性を絞るためにb→ cud 遷移の崩壊モードを研究し、φ1=16±21±11度という結果を出した。

 さらに、B0→φK0, η’ K0, f 0KSなど、cクォークを含まない崩壊には新しい物理の寄与が入りうる。これらの崩壊のCP の破れの時間依存性からsin2φ1を求め、cクォークを含む結果と矛盾しないことを示した。

 また、B0→ D*+D*−→ DπDπ崩壊において娘粒子の角度分布を測定し、b→ ccs 反応におけるCP 対称性の破れを調べた。その結果、J/ψKS で得られた非対称度と矛盾しない結果を得た。

 また、B0→ f 0(980)KS の解析も行い、標準理論と矛盾しないCP 非対称度を得た。

 原はBelle 全ての解析で用いられるモンテカルロシミュレーションのコードの開発と維持の責任を担っており、Belle グループ全体の解析に寄与している。

Belle の実験結果
  • “Time-Dependent CP-Asymmetries in b → sqq Transitions”, K.-F.Chen, K.Hara, T.Hara et al., Phys. Rev. D72, 012004(2005).
  • “Branching Fraction, Polarization and CP−Violating Asymmetries in B0→D*+D*− Decays”, H.Miyake, T.Hara, T.Yamanaka et al., Phys. Lett. B618, 34−32 (2005).

2.教育活動

 この5年間で、大学院博士課程後期の大学院生4名が理学博士の学位を取得した。

  • 原 康二/“Measurement of Time-Dependent CP Asymmetry Parameters in B0→η’KS”(2003年6月)
  • 三宅秀樹/“Measurement of Polarization and Time-Dependent CP Asymmetry Parameters in B0→D*+D*− Decays”(2005年3月)
  • 坂下 健/“Search for the Decay KL →π0νν”(2006年3月)
  • 小寺克茂/“Study of the Decay KL →π+eνe+e to Probe the Semileptonic K−π Structure”(2006年9月)

3.特記事項

 三宅秀樹氏は2005年に第7回高エネルギー物理学奨励賞を受賞した。

坂下健氏は2006年に第8回高エネルギー物理学奨励賞を受賞し、2007年に日本物理学会若手奨励賞を受賞した。