大阪大学21世紀COEプログラム 究極と統合の新しい基礎科学 実績報告書

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事業推進担当者の活動報告 > 赤井  久純 理学研究科物理学専攻・教授
赤井 久純 理学研究科物理学専攻・教授 写真

計算機マテリアルデザイン手法の開発とその応用

赤井  久純  理学研究科物理学専攻・教授

役割/事業推進担当

1.研究活動

 第一原理電子状態計算にもとづく、量子シミュレーション、量子デザインに関する研究をおこなった。国際会議における招待講演は31件、口頭発表は22件、関連する発表論文は105偏であった。

1)ハーフメタリック希薄反強磁性半導体の研究とデザイン

 計算機マテリアルデザインは量子シミュレーションの逆問題に相当する量子デザインを実行することによってなされる。このような逆問題を解くことは一般的に困難であるが、量子デザインの場合は量子シミュレーションを繰り返し、物性発現のメカニズムを計算機実験によって明らかにすることに解くことができる。このような方法論の開発とともに、量子デザインを行い、種々の新たな機能性材料の理論的開発を行っている。

 図1は量子デザインによって開発された新しいタイプのスピントロニクス材料であるハーフメタリック希薄反強磁性半導体(Zn, Cr, Fe)S の状態密度曲線である[1]。上向きスピン電子に対しては金属、下向きスピン電子に対しては絶縁体で、しかも磁化を持たないという著しい特徴を有する物質であることがわかる。

 このようなことは通常の反強磁性体ではスピンの回転対称性から起こりえないが今の場合磁性を担うイオ計算機マテリアルデザイン手法の開発とその応用ンが2種類あることからこのような電子状態が可能になっている。このような系はフェルミ面が100%スピン偏極しているにもかかわらず、磁化がなくしたがって、外場の影響を受けない、形状磁気異方性が小さいなどの点から、スピン注入型のスピントロニクス材料として大変有望だと考えられている。

図1 ハーフメタリック希薄反強磁性半導体(Zn, Cr, Fe)Sの状態密度曲線。
2)第一原理電子状態計算手法の開発

 第一原理電子状態計算手法の一つであるKKR グリーン関数法に基づいた以下の計算手法の開発を進めた。(1)ポテンシャルの記述にモデルを使用しないフルポテンシャルKKR 法。パイライト型化合物などの複雑な構造を持つ物質で従来のポテンシャルモデルを用いた計算の問題点を解決した[1]。(2)オーダーN計算を実現する遮蔽KKR 法。(3) KKR 法と久保・Greenwood公式を組み合わせた輸送現象の計算手法。これを用いて、DC 電気伝導率の計算[2]やゼーベック係数の計算を行った、(4)グリーン関数から交換相互作用を求め、ハイゼンベルグモデルの枠組みでクラスター近似と組み合わせた磁気転移温度の計算[3、4]。(5)局所密度近似を超える手法として、最適化有効ポテンシャル法を用いた電子状態計算手法の開発も進行中である。

  • [1] H.Akai and M.Ogura, Phys. Rev. Lett. 97, 06401−1−4 (2006).
  • [2] M.Ogura and H.Akai, J.Phys.: Condense. Matter 17, 5741−5755 (2006).
  • [3] H.Akai and M.Ogura, J.Phys D: Applied Physics 40, 1238−1241 (2007).
  • [4] C.Takahashi, M.Ogura and H.Akai, J.Physics: Condens. Matter 19, 365233−1−6(2007).
3)核スピンの電場操作

 核スピンは量子計算機における量子ビットの候補として有力である。量子計算機を固体素子を用いて実現しようとすると、デバイス内で核スピンを操作する必要がある。このような核スピン操作を実現する方法として希薄磁性半導体へテロ構造を用いた核スピンの電場操作の原理を開発した[5]。図2に(InMn)As/AlSbヘテロ構造中のアンチサイトAs の超微細磁場のバイアス電圧依存性と、図3にこれを用いたデバイスを示す。

  • [5] M.Ogura and H.Akai, Appl. Phys. 91, 253118−1−3 (2007).
図2 (InMn)As/AlSb ヘテロ界面中の
アンチサイトAs の超微細磁場の
バイアス電圧依存性
図3 核スピンの電場操作を行う
デバイスの例
4)アンダーソン局在の数知的研究

 アンダーソン局在とアンダーソン転移における臨界現象を数値的な手法によって研究した。とくに、スピン軌道相互作用の効果を研究し、また、その効果を人為的に用いることによって、臨界指数等に関するモンテカルロシミュレーションの飛躍的な精度の向上を得ることに成功した。

5)表面化学反応とそのデザイン

 表面胃おける解離吸着や表面反応をダイナミカルな効果を取り入れた電子状態計算に基づき研究した。その結果、カーボンをベースにした水素吸蔵材料、反応プロセスのデザインや、新しい触媒材料開発のための指針、遷移金属酸化物を用いた電流制御の原理等のこれまで第一原理的なアプローチの困難であった問題に対して計算機マテリアルデザインを適用する突破口を開いた。

6)表面吸着と再構成

 秩序化と外部駆動力が競合する吸着子系に対して、中間相、連続転移、不連続転移、特異な熱的性質等を確立することにより情報の乏しい実験的状況に示唆を与えた。

2.教育活動

 この5年間で博士後期課程の大学院学生8名が理学博士の学位を取得した。

  • 渡辺 晋/“On the Screened KKR Method for Multi Layered Systems”(平成16年3月)
  • 本田裕士/“Electronic Structure of Doped Perovskite Manganites La1−XCaXMnO3 Calculated by LDA and by Optimized Effective Potential Method in the KLI Approximation”(平成16年3月)
  • 鎌谷輝明/“Materials Design of III-V / II-VI Heterostructure and Chalcopyrite Based Diluted Magnetic Semiconductors”(平成16年3月)
  • 松下勝義/“Numerical Study of Atomic Scale Friction between Clean Graphite Surfaces”( 平成16年3月)
  • 小倉昌子/“Electric Field Gradients Calculated by the Full Potential KKR Green’s Function Method”(平成16年6月)
  • 浅田洋一/““Anderson Transition in Disordered Electron Systems with Spin-Orbit Coupling”(平成17年3月)
  • 能川知昭/“Spatio-Temporal Order of Driven Periodic Systems in Quenched Random Media”( 平成17年3月)
  • 米原 仁/“First-Principles Calculation of Transport Properties of Metals, Alloys and Semiconductors”(平成17年3月)

3.特記事項

 計算機マテリアルデザインに関するチュートリアルコースであるCMD ワークショップを12回開催し、第一原理電子状態計算とそれを用いた量子シミュレーションとデザイン手法の公開と普及を進めた。

 計算機マテリアルデザインに関する文部科学省科学研究費補助金特定領域「次世代量子シミュレータ・量子デザイン手法の開発」を発足させた。