大阪大学21世紀COEプログラム 究極と統合の新しい基礎科学 実績報告書

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事業推進担当者の活動報告 > 小川  哲生 理学研究科物理学専攻・教授
小川 哲生 理学研究科物理学専攻・教授 写真

非平衡光誘起電子相転移の理論的研究

小川  哲生  理学研究科物理学専攻・教授

役割/広報およびホームページ担当

1.研究活動

 物質と光との相互作用に起因する諸現象を理論的に解明することにより、微視的立場と現象論的立場から凝縮系物質の光学過程の基礎的知見を得ることが、研究を貫く問題意識である。研究は二つの研究テーマに大別される。テーマ?:従来のレーザー分光学や光物性物理学のように、物質の電子状態やフォノン状態の知見を得るために、光を物性研究のプローブとして用いる立場。テーマ?:物質の諸性質を光で制御したり、光照射によって新たな物質相(電子-正孔プラズマ状態やレーザー発振状態等も含む)を創成するような、物質に対する積極的な役割を光に担わせる立場。これら双方の研究を進め、丸文研究奨励賞(平成16年)を受賞した。

1)1次元電子-正孔系のボゾン化法による研究

 1次元電子-正孔系を、クーロン相互作用の長距離性まで考慮した上で、ボゾン化法と繰り込み群法を用いて考察した。高密度極限における基底状態は、常に電荷ギャップとスピンギャップが開いた絶縁体状態であり、励起子分子結晶(参照)としての性格を持っていることを明らかにした。すなわち、1次元電子-正孔系では、高次元系で予想されている「励起子モット転移」が生じないことを示唆している。

  • K.Asano and T.Ogawa, J.Lumin., 112, 200 (2005).
  • T.Ogawa, J.Phys.: Cond. Mat. 16, S2567 (2004).
2)2次元電子-正孔系のスレイブボゾン平均場法による研究

 2次元電子-正孔系に対する単純なモデルとして、2バンドハバードモデルをスレイブボゾン平均場法を用いて解析した。この方法では動的応答は考察できないが、基底状態の「準安定相図」を求めることができる。斥力相互作用と引力相互作用および粒子数密度によって基底状態の性格がどのように変化するか調べ、プラズマ金属相(赤色領域)、励起子ガス絶縁相(青色領域)、励起子分子ガス絶縁相(緑色領域)の三つの相が現れることを示した。低密度では、励起子相領域が増大する。

3)高次元電子-正孔系での励起子モット転移と光学応答

 動的平均場近似理論を2バンドハバード模型に適用することにより、高次元(3次元系)での電子-正孔系の量子状態を調べた。この方法は、スレイブボゾン平均場法よりも正確で、動的応答も計算することができる。動的平均場理論により写像された量子1不純物問題を厳密対角化法で解き、電子-正孔系の「準安定相図」を、任意の粒子密度で描くことに成功し、吸収と発光スペクトルも得た。は、引力相互作用と斥力相互作用を座標軸に描いた。金属-絶縁体転移「励起子モット」転移は1次相転移であり、絶縁体相には2種類が存在する。。

  • Y.Tomio and T.Ogawa, J.Lumin., 112, 220( 2005).
  • P.Huai and T.Ogawa, J.Lumin., 119, 468 (2006).
  • T.Ogawa, Y.Tomio and K.Asano, J.Phys.: CS 21, 112 (2005).
4)高次元電子-正孔系での励起子BEC-BCSクロスオーバーと光学応答

 2バンドハバード模型に自己無撞着T行列近似を適用して、電子-正孔「量子対凝縮」の転移温度を計算した。弱結合領域では電子-正孔BCS 状態、強結合領域では励起子BEC が出現するが、その間のクロスオーバーを解明した。電子-正孔質量比依存性などを考察し、吸収と発光スペクトルも得た。は、転移温度の相互作用依存性を、3種類の質量比の場合に描いたもの。

  • Y.Tomio, K.Honda and T.Ogawa, Phys. Rev. B 73, 235108(2006).
  • T.Ogawa, Y.Tomio and K.Asano, J.Phys.: Cond. Mat. 19, 295205(2007).
5)遮蔽ハートリーフォック理論による半導体量子細線の利得特性の研究

 自由キャリア理論では、1次元結合状態密度の形状により、半導体量子細線レーザは高次元半導体レーザよりも高い性能があると予測されてきた。しかし、非ドープ半導体量子細線ではクーロン相互作用は非常に重要な役割を担っており、励起子効果により、バンド端より高エネルギー側の光吸収は大幅に減少する。そこで、多体クーロン相互作用によって誘起される相関効果を取り入れて、量子細線の利得特性を系統的に詳しく研究した。電子-正孔2バンドモデルを適用して計算した。密度を増大させると、利得増大効果は急激に減少し、高密度領域では抑圧する効果に転じる。これらの効果の物理的理由は、電子-正孔相関関数の振る舞いによって理解することができた。

  • P.Huai, H.Akiyama, Y.Tomio and T.Ogawa, JJAP 46, L1071(2007).

2.教育活動

 平成17年度に、石川陽の博士学位論文「Nonequilibrium spatiotemporal carrier dynamics in one-dimensional electron-hole systems」を指導し、主査として判定し、博士(理学)の学位を取得させた。平成19年度に、中谷正俊の博士学位論文を指導し、博士(理学)の学位を取得予定である。
他大学・研究機関での集中講義は、京都大学大学院理学研究科など6件。量子力学の教科書「量子力学講義」(サイエンス社)を平成18年に刊行した。光物性物理学の教科書「光物性の基礎と応用」(オプトロニクス社)を平成18年に刊行した。

3.特記事項

 平成16年に、「低次元物質の光励起状態と光学応答に関する理論的研究」によって、丸文研究交流財団から丸文研究奨励賞を受賞した。
平成20年11月開催予定の第3回光誘起相転移国際会議の企画運営委員とプログラム委員を担当している。
競争的外部資金(平成15〜19年度)として、科学技術振興機構(JST) の戦略的創造研究推進事業(CREST)に採択され、東京大学物性研究所秋山英文准教授と共同でプロジェクト研究を推進した。
日本電信電話(株)と「量子ドット列における光物性の理論解析」に関する共同研究を推進している。