大阪大学21世紀COEプログラム 究極と統合の新しい基礎科学 実績報告書

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事業推進担当者の活動報告 > 野末  泰夫 理学研究科物理学専攻・教授
野末 泰夫 理学研究科物理学専攻・教授 写真

配列ナノクラスターにおける相関s電子系の物理

野末  泰夫  理学研究科物理学専攻・教授

役割/事業推進・留学生担当

1.研究活動

 種々のゼオライト結晶の細孔に様々な条件でアルカリ金属を吸蔵させて、配列したアルカリ金属ナノクラスターを作成し、その光学的・磁気的性質、μSR、超強磁場、電子スピン共鳴などの測定を行った。その結果、クラスター内での s 電子の局在性とクラスター間の遍歴性のバランスに依存して、強相関 s 電子系としの性質が大きく変化することが明らかになった。特に、非磁性元素で構成されるナノクラスターの縮退軌道によって増強された強磁性を複数見いだすことができた。

1)Rbクラスターの新たな強磁性

 ゼオライトA中のRb クラスターにおいて、 s 電子濃度(吸蔵量)を高くすると遍歴電子系の性質が現れ、さらに、新たな強磁性が見いだされた。これに先立ち、Kクラスターで行った研究では、全ての s 電子濃度においてモット絶縁体状態にあり、αケージに形成されたクラスターの s 電子数が2個を超えると突然強磁性が観測される。これをクラスターの1p 準位のスピン軌道相互作用が軌道縮退によって巨大化し、反強磁性配列したスピンがジャロシンスキー・守谷の相互作用(反対称交換相互作用)によって傾く機構で説明した。しかしRb クラスターでは種々の性質が異なり、1p 準位を占有した s 電子はバンド幅の増大によって遍歴電子系となり、 s 電子数は4個以上で強磁性が観測される。それを、図1に示すように、それぞれ単純立方構造で配列したβケージとαケージのクラスターの非等価な磁気副格子間に反強磁性相互作用が発生し、そのフェリ磁性モデルで説明した。これはゼオライトにおける新しい強磁性である。

  • Evidence for Ferromagnetism in Rubidium Clusters Incorporated into Zeolite A, T.C.Duan, T.Nakano and Y. Nozue, J.Mag. Mag. Mat. 310(2007) 1013−1015.
  • Magnetic and Optical Properties of Rb and Cs Clusters Incorporated into Zeolite A, T.C.Duan, T.Nakano and Y.Nozue, e-J. Surf. Sci. Nanotech. 5(2007) 6−11.
図1 ゼオライトAの細孔中の配列した
アルカリ金属クラスター。
αケージ(緑色)とβケージ(紫色)に
クラスターが形成されるモデルが示されている。
図2 ゼオライトLSX の細孔中の配列した
アルカリ金属クラスター。
スーパーケージ(赤色)とβケージ(薄茶色)
にクラスターが形成されるモデルが
示されている。
2)Néel のN型フェリ磁性の発見

 βケージおよびその間に形成されるスーパーケージがそれぞれダイヤモンド構造で配列したゼオライトLSX(Low Silica X)でNa イオンを部分的に含むものに金属カリウムを高濃度に吸蔵させたところ、遍歴電子系の性質が表れ、また、ある範囲のs 電子濃度において、自発磁化が補償温度でゼロになる典型的なNéelのN型フェリ磁性を発見した。磁気構造としては、図2に示したように、βケージとスーパーケージにおいて非等価な磁気副格子が形成されるモデルを提案した。μSR においてもこれが主要な磁気相によるものであることを確認した。

  • μ SR Study on Ferrimagnetic Properties in Potassium Clusters Incorporated into Low Silica X Zeolite, T.Nakano, K.Goto, I.Watanabe, F.L.Pratt, Y.Ikemoto and Y.Nozue : Physica B 374−375 (2006) 21−25.
3)圧力ドーピング法の開発と遍歴電子強磁性の発見

 ゼオライト細孔へのアルカリ金属の吸蔵は、原子サイズによる単純な見積と比較すると、内部の空隙を全て満たす量の吸蔵には至っていない傾向にある。そこで、圧力ドーピング法により更にアルカリ原子を吸蔵させることにより、細孔内の s 電子数が増えることが期待される。しかし、その圧入の為には高度な技術を必要とする。様々な工夫と改良を行い、その技術をほぼ完成させて、種々のゼオライトに適用した。ゼオライトA中のKクラスターにおいて、金属カリウムの圧力ドーピングを行ったところ、クラスターの1p 準位にできた正孔が s 電子の占有によって消失し、その磁気モーメントが消失することが観測された。またカリウム金属の飽和吸蔵によって遍歴電子系のフェリ磁性が観測されるゼオライトLSX 中のK クラスターにおいては、圧力ドーピングによってフェリ磁性は一度消失するが、800 MPa 程度の圧入によって突然ほぼ純粋な強磁性が観測されることを発見した。このことから s 電子系であっても、配列ナノ空間に閉じ込めることによって遍歴電子系の強磁性が発現することになり、その意義は大きい。

  • Magnetic property of potassium clusters in pressure-doped zeolite A, N.H.Nam, S.Araki, H.Shiraga, S.Kawasaki, Y. Nozue, J. Mag. Mag. Mat. 310 (2007) 1016−1018.
4)スーパーアトム描像とエネルギーバンド計算

 ゼオライトA中のカリウムクラスターの電子状態については、超強磁場やμSR によってさらに詳しく解明されてきた。その中で、理論計算は、その難しさから信頼のできる計算はなされてこなかった。そこでいくつかの工夫により第一原理電子状態計算を行うことに成功した。その結果、クラスターの s 電子の局在状態は超原子状態を形成し、それが配列する“超原子結晶”という描像が成り立つことが理論的に明らかになった。多数の原子が関係していながら、きわめて単純な近似描像が成立する。モット絶縁体となることも理論的に説明できた。

 また、この系において軌道縮退が重要な寄与を与えていることを実験的に明確にしてきた。その際、 s 電子系でありながら、1p 準位の軌道縮退によってスピン軌道相互作用が飛躍的に増大することについて、アルカリイオン上の局所ポテンシャルによってスピン軌道相互作用が増強効果される理論的なモデルを提案した。

  • Electronic Properties of Alkali-Metal Loaded Zeolites --- A“Supercrystal” Mott Insulator, R.Arita, T.Miyake, T.Kotani, M.van Schilfgaarde, T.Oka, K.Kuroki, Y.Nozue and H.Aoki, Phys. Rev. B69 (2004) 195106−1〜5.
  • Orbital degeneracy and magnetic properties of potassium clusters incorporated into nanoporous crystals of zeolite A, T.Nakano and Y.Nozue, to be published in Journal of Computational Methods in Science and Engineering.

2.教育活動

 大学院博士後期課程の大学院生2名(ベトナムからの留学生)が理学博士の学位を取得する予定である。

  • Truong Cong Duan/“Magnetic and optical properties of Rb and Cs clusters incorporated into zeolite A”(平成20年3月予定)
  • Nguyen Hoang Nam/“Magnetism of alkali metal clusters in pressure-doped zeolites”(平成20年3月予定)

3.特記事項

 日本物理学会シンポジウムにて「かご状ナノ空間を利用した新物質系」を開催し、関心を集めた(平成19年3月・於鹿児島大学)。これらの研究が発展して、文部科学省科学研究費補助金・特定領域研究「配列ナノ空間を利用した新物質科学」がスタートした。

 ベトナム国立大学との交流を深め、本プログラム関係者全体で11名、当研究室としても4名のベトナム人留学生を受け入れた。