大阪大学21世紀COEプログラム 究極と統合の新しい基礎科学 実績報告書

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事業推進担当者の活動報告 > 竹田  精治 理学研究科物理学専攻・教授
竹田 精治 理学研究科物理学専攻・教授 写真

ナノ物質構造生成メカニズムの透過電子顕微鏡による研究

竹田  精治  理学研究科物理学専攻・教授

役割/事業推進担当

1.研究活動

 カーボン・ナノチューブに代表されるナノ物質構造の特性は詳細に研究されているが、その生成メカニズムは原子スケールでは全く明らかにされていない。透過電子顕微鏡法によるその場(in-situ)観察を主な実験手段として、ナノ物質構造の生成メカニズムの解明を目指している。

 21COE プロジェクトで当研究グループには、院生・若手教員(助手)の活性化のための経費として、5年間で総額4,879千円が配分された。よって、ここでは、当研究グループで行われた研究成果のなかで、主に院生・若手教員(助手)によるものを紹介することとする。なお、当研究グループの河野日出夫准教授が主体となり行った研究成果(シリコン・ナノチェイン等の新規ナノ構造の合成と、その成長の統計力学的解析、および特性評価など)はここでは紹介しないが、ホームページ http://tem.phys.sci.osaka-u.ac.jp/paper.htmlに論文リストが掲載してあるので是非、参照して頂きたい。

1)カーボン・ナノチューブの生成メカニズムの環境制御型透過電子顕微鏡法による研究

 カーボンナノチューブ(CNTs)は、原料気体(エタノール、メタン、アセチレンなど)の雰囲気中で化学気相成長法(CVD)により成長する。このCVD 成長においては、鉄、コバルト、ニッケルなどの金属のナノ粒子が触媒として重要な役割を果たすことも知られている。しかし、金属ナノ粒子からカーボンナノチューブが成長するメカニズムは原子スケールで未だに解明されていない。CNT の成長を原子スケールでその場観察できる可能性のある実験装置は透過電子顕微鏡のみであるが、通常は試料を高真空中に置いて観察しなくてはならない。そこで、観察中の試料の周囲に気体を導入できる透過電子顕微鏡用の環境セルを新規に開発した。この環境セルを電界放射型透過電子顕微鏡に装備した環境制御型透過電子顕微鏡(ETEM)は、気体圧力2000Pa においても高い空間分解能(0.20nm以上)を達成できる。

 このETEM を利用して、単層および多層CNT の成長を直接観察することに成功した。現在、CNT 成長のダイナミックスを解析している。図1は、触媒として作用している金属ナノ粒子を固定点として、多層CNTが激しく回転運動をしながら成長している様子を捉えている。以前から知られていたCNT がピラー間を架橋する現象の起源 はこの回転運動であると結論した。

図1 環境制御型透過電子顕微鏡によるカーボンナノチューブ成長過程のその場観察。
  • Image formation in a transmission electron microscope equipped with an environmental cell, H.Yoshida(D院生) and S.Takeda: Phys. Rev. B72 (2005) 195428/1−7.
  • Environmental transmission electron microscopy observations of swinging and rotational growth of carbon nanotubes, Hideto Yoshida, Tetsuya Uchiyama(D 院生), and Seiji Takeda: Jpn. J.Appl/ Phys. Part 2, 46 (2007) L917−919.
  • Growth of single-walled carbon nanotubes on silicon nanowires, H.Yoshida(D院生), T.Uchiyama(D院生), J.Kikkawa(D院生), and S.Takeda: Solid State Commun. 141 (2007) 632−634.
2)シリコン・ナノワイヤーの成長と特性

 シリコン・ナノワイヤーは、電子デバイスのみならず様々な応用が期待されている。シリコン・ナノワイヤーは金ナノ粒子を触媒としてVLS(Vapor-Liquid-Solid)成長する。透過電子顕微鏡法(ex-situ 観察)により成長速度の測定を行い、シリコン・ナノワイヤーの直径には最小値(2−3nm)が存在することを示唆した。さらに、成長速度の成長温度依存性を測定することで、直径が約10nm 以下のシリコン・ナノワイヤーの成長においては、原料ガスの分解に金ナノ粒子は寄与しないことを結論した。

 シリコン・ナノワイヤーの電子エネルギー損失分光スペクトルを測定した。低エネルギー損失領域のスペクトルはシリコン・ナノワイヤーの直径に依存して変化する。単極の表面プラズモンが強く励起される極細のシリコン・ナノワイヤーにおいては、バンド間遷移が顕著に現れることを明らかにした。

  • Enhanced direct interband transitions in silicon nanowires studied by electron energy-loss spectroscopy, J.Kikkawa(D院生), S.Takeda, Y.Sato, and M.Terauchi: Phys, Rev. B75 (2007)245317/1−5.
  • Growth rate of silicon nanowires, J.Kikkawa(D院生), Y.Ohno(若手教員) and S.Takeda: Appl. Phys, Lett. 86 (2005) 123109.
3)電子線ナノファブリケーションによる半導体ナノ構造の生成メカニズムの研究

 高エネルギー電子を結晶に照射すると固体中には大量の点欠陥が導入される。この点欠陥の拡散の帰結として、結晶表面や内部にナノ構造が形成されることがある。透過電子顕微鏡によるその場観察からナノ構造の形成メカニズムを考察した。

 シリコン表面に形成される表面ナノホールの形成過程を照射条件を系統的に変化させて観察し、その形成メカニズムを考察した。ナノホールの空間的配列と深さは照射条件によって変化するが、この現象を電子照射によって表面に導入された空格子点の拡散(熱的拡散および電子照射による非熱的拡散による)として説明した。

 さらに、電子線照射したシリコン結晶表面に金を真空蒸着して熱処理を行うと、特定の電子線照射条件では、電子照射領域の中央部に金ナノ粒子が選択的に成長することを実験的に見いだした。電子線照射による粗い表面上の金原子は、粗さに応じて拡散定数が変化すると仮定し、実験結果を定性的に説明することができた。

  • Diffusion and condensation of adatoms on inhomogeneous rough surfaces K.Torigoe(D院生), Y.Ohno(若手教員), H.Kohno, T.Ichihashi, and S.Takeda: Surf. Sci. 601 (2007) 5103−5107.
  • Excavation rate of silicon surface nanoholes Y.Ohno(若手教員), S.Takeda, T.Ichihashi, and S.Iijima: J.Appl. Phys. 99 (2006)126107/1−3.

2.教育活動

 この5年間で大学院博士課程の大学院生4名が理学博士の学位を取得(予定)した。

  • 吉川 純/“Initial growth stage and plasmonic property of silicon nanowires”(平成18年3月)
  • 吉田秀人/“Environmental transmission electron microscopy study of the growth process of carbon nanotubes”(平成19年3月)
  • 鳥越和尚/“Formation of metal nanoparticles on electron-irradiated silicon surfaces”(平成19年3月)
  • 正田 薫/“Structural characterization of carbon materials fluorinated in CF4 plasema”(平成20年3月予定)

3.特記事項

  21COE プロジェクトの役割分担でもあった「電子顕微鏡法による固体構造解析」の専門家として、平成19年度より科学研究費補助金・特別推進研究「金属ナノ触媒粒子の気体反応メカニズムの原子・電子構造的解析」を研究代表者として推進している(5年間:予定)。

 若手教員として21COE プログラムから支援を受けた大野裕博士(助手)は、上記以外に、以下の単名の論文発表を行い、平成19年1月に東北大学金属材料研究所に助教授(現、准教授)として移動した。

  • Photoinduced stress in a ZnSe/GaAs epilayer containing 90°α partial dislocations, Yutaka Ohno (若手教員): Appl. Phys. Lett. 87 (2005) 181909/1−3.
  • Polarized light emission from antiphase boundaries acting as slanting quantum wells in GaP/InP short-period superlattices, Yutaka Ohno (若手教員): Phys. Rev. B72 (2005)121307(R)/1−4.