大阪大学21世紀COEプログラム 究極と統合の新しい基礎科学 実績報告書

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事業推進担当者の活動報告 > 高部  英明 レーザーエネルギー学研究センター高エネルギー密度科学研究部門・教授
高部 英明 レーザーエネルギー学研究センター高エネルギー密度科学研究部門・教授

クォーク核物理の実験研究

高部  英明  レーザーエネルギー学研究センター高エネルギー密度科学研究部門・教授

役割/事業推進担当

1.研究活動

 5年間に理論的研究から、理論の実験的検証の研究へと大きく研究手段も変化した。主な研究課題は、(1)超高強度レーザーによる相対論的電子・陽電子プラズマの生成過程の運動論的研究、(2)電子・陽電子プラズマの相対論的ジェットの伝搬機構の解明、(3)白色矮星2連星系の合体による降着円盤形成機構の解明、(4)パルサー周りの反平行磁場と相対論的無衝突衝撃波の相互作用の物理機構の解明、(5)超新星残骸などによる無衝突衝撃波の形成過程と粒子加速の物理、(6)光電離非平衡プラズマの物理、である。以上のように宇宙で重要となる物理現象の理論的解明と大型レーザーによる模擬実験の実施が5年間の活動であった。参考までに、2007年に行った招待講演は8件で、国際会議が4件(内1件は基調講演)、国内会議は5件であった。

1)レーザー生成電子・陽電子プラズマの研究

 超高強度レーザーを高Z物質に照射すると、電子の振動エネルギーに相当する数10MeV の高密度で相対論的な電子群が生成する。主にこの電子から生じたガンマ線が核とBethe-Heitlor過程で相互作用し、対生成が起こる。このような陽電子生成過程を運動論的に計算し、米国リバモア研の実験グループと協力し、実験結果の解析を行った。その結果、加速器による対生成とは異なる、「プラズマ効果」が極めて重要であることを示した。

 このようにして生じた電子・陽電子はプラズマ効果によりローレンツ因子が10程度のジェットとして標的裏面から発生する。これは宇宙に於ける活動銀河核ジェットなどの模擬となりうる。そこで、活動銀河核ジェットの伝搬の物理を、相対論的流体コードを開発し研究した。そして、ジェット先端部の物理機構に渦運動が重要になることなどを解明した。

 さらに、レーザーを用いた核物理「レーザー核物理」という新しい研究分野の可能性に関するパイオニア的研究を行った。

  • Explosive Nucleosynthesis Associated with Formation of Jet-induced Gamma-Ray Bursts in Massive Star, S.Nagataki, A.Mizuta, S.Yamada, H.Takabe, and K.Sato, Astrophysical Journal, 596, 401−413, (2003)
  • Propagation and Dynamics of Relativistic Jets, A.Mizuta, S.Yamada, and H.Takabe, Astrophysical Journal, 606, 804−818 (2004)
  • Laser Nuclear Physics, H.Takabe, AAPPS Bulletin, Vol.13,No.1, 18−25 (2003).
2)無衝突衝撃波と粒子加速の物理

 高マッハ数の無衝突衝撃波の生成の物理機構とそれに伴う荷電粒子の加速機構は、太陽風によるバウショックからガンマ線バーストまで1020eV に至る宇宙線の起源として、極めて重要な研究課題である。超新星残骸のX線観測画像は、爆風波の波面に局在する1014eV にまで加速された電子の存在を示唆したが、理論は現象論の域を出ない。

 理論・シミュレーション研究においては飛躍的に進歩し、新たなプラズマ粒子加速機構が議論されるようになってきた。従来、陽子を1015eV 程度の超相対論領域にまで加速する超新星残骸の無衝突衝撃波は星間磁場という外場の中での無衝突衝撃波であると信じられていた。ところが、レーザー・プラズマでも精力的に研究されていたワイベール不安定性に着目し、超新星爆発でプラズマが星間プラズマ中を超高速で走る際にワイベール不安定が磁場を生成し、その非線形段階で磁気リコネクションが繰り返され、構造形成が起きることを示した。そして、その磁場(静止系では磁場生成に伴う電場も)が十分強いため、星間プラズマのイオンに力が働き、無衝突衝撃波が形成される。この物理機構を2次元の粒子シミュレーションで明らかとした(図1)。この理論的発見は外部磁場を必要としない点で画期的である。

図1 2次元粒子シミュレーションで自発磁場の非線形発展から無衝突衝撃波が
形成されることが明らかとなった。図は衝撃波が形成された時刻の分布。
横軸はX軸(流れの方向)。上から、密度の2次元分布、以下、Y方向に平均化した
密度分布、平均流速、磁場、電場のエネルギー密度分布。

 
この理論を実験的に検証すべく、高強度大出力のレーザーで1000km/s 以上の高速プラズマ流を生成し、二流体プラズマ系でワイベール不安定とその非線形過程で生まれる自己磁場が無衝突衝撃波を生み出すことを目指した実験を開始した。2方向からの噴射プラズマで二流体系を生成し、(1)磁場生成の発展、(2)衝撃波生成を示す密度の分布、(3)非熱的粒子加速を示す電子の分布関数、を計測すべく実験を欧州との国際共同研究で推進している。

  • “A Historical Perspective of Developments in Hydrodynamic Instabilities, Integrated Codes and Laboratory Astrophysics”, H.Takabe, Nuclear Fusion 44, pp. S149−S170 (2004)
  • 「 高強度レーザーを用いた実験室宇宙物理学」高部英明、プラズマ核融合学会誌、83、No.5、pp.465−471 (2007)
3)光電離非平衡プラズマの物理

 宇宙のような極限環境下では極めて強い輻射場に物質がさらされている天体などが良く観測される。その典型的な例がコンパクト星を取り巻く降着円盤の重力エネルギーが輻射温度にして1keV にも達する連星系である。この伴星が主系列性の場合、その表面は輻射により光電離しているにもかかわらず、自由電子の平均エネルギーは極めて低い。このような光電離天体ではX線領域のレーザー自然放射が期待される。このような光電離を含む「熱力学的非平衡プラズマの原子課程」を理論的に解明するためのコード開発を行い、同時に、計算コードの検証と改良を行うための宇宙模擬実験を実施してきた。

 図2にその実験配置を示す。金色のDog-Born と呼ばれる輻射閉じ込め金容器の内壁にレーザーを照射する。は上下の軸に回転対称で、緑は合計8本の高強度レーザーを示し、金容器の両端に開けた穴に集光し内壁を加熱する。すると、レーザーエネルギーは効率よく(約80%)輻射のエネルギーに変換され、金容器の中は輻射温度にして100eV 程度のプランク分布で満たされ、その状態を10ナノ秒程度維持することができる。この輻射が金容器内に設置した被加熱物質に照射されることで、先に述べた宇宙環境を模擬することができる。

図2 光電離非平衡プラズマ物理実験の輻射容器とレーザー照射条件の概念図。
上下から8本のレーザーを、金色で描いた金の空洞容器の内面に照射する。
図は円筒状で回転対称である。レーザーを金に照射すると効率よく熱X 線に
エネルギー変換され、金の容器内は輻射温度で80eVのプランク分布で満たされることが
計測で確認された。これが容器内に置いた被加熱物質(これが光電離プラズマになる)に
照射されることで、光電離プラズマの実験が可能となる。
光電離プラズマの吸収スペクトル計測用に左に第9のレーザーでX線源を作り
その透過スペクトルの分光測定も行った。

 
実験では被加熱物質として窒素ガスとシリコンゲルを用いた場合の(2)自発光スペクトル、(1)吸収スペクトルの時間分解計測を行った。(1)の場合には9番目のレーザーをの左のように別途用意した金に照射し、X 線源とし、被加熱プラズマを透過させて、その透過スペクトルを得た。本実験は中国物理研究所(IOP, Beijing)、中国国家天文台(NAOC)との国際共同実験として行った。並行して、DCA(Detail Configuration Accounting)モデルのレート方程式の数値計算コードを開発し、詳細原子コードHULLAC と組み合わせて実験結果の解析および物理解明を行った。

 輻射温度80eV に対し、金容器内のプラズマの自由電子の温度は20eV と大きく温度の異なる非平衡系になっていることがスペクトル解析より明らかとなった。

  • “Experimental Evidence and Theoretical Analysis of Photoionized Plasma under X-ray Radiation Produced by Intense Laser”, F-L. Wang, S.Fujioka, H.Nishimura, D.Kato, Y-T Li, G.Zhao, J.Zhang and H.Takabe, Physics of Plasmas, to be published (2008).
  • “Absorption Measurement of Radiatively Heated Silicon Plasma”, Huigang Wei, Jianrong Shi, Gang Zhao, Zhang, Quan-Li Dong, Yu-Tong Li, Shou-Jun Wang, Jie Zhang*, Zuotang Liang, Ji-Yan Zhang, Tian-Shu Wen, Wen-Hai Zhang, Xin Hu, Shen-Ye Liu, Yong-Kun Ding, Lin Zhang, Yong-Jian Tang, Bao-Han Zhang, Zhi-Jian Zheng, Hiroaki Nishimura, Shinsuke Fujioka, Fei-Lu Wang, and Takabe Hideaki, Physical Review Letters, to be published(2008)

2.教育活動

 この5年間で大学院後期博士課程の大学院生4名が理学博士の学位を取得した。

  • 中島建一/“Theoretical Study of Positron Production by Ultra-Intense Laser”(平成16年3月)
  • 水田 晃/“Jet Propagation in Universe and Laboratory”(平成16年3月)
  • 塩屋俊直/“Computational Study of Coalescence of White Dwarf Binary System”(平成18年3月)
  • 永田健太郎/“Interaction Between Alternating Magnetic Fields and a Relativistic Collisionless Shock”(平成20年3月予定)

3.特記事項

 本事業担当者は、米国原子力学会(American Nuclear Society)より「Pioneering Research and Leadership in Inertial Fusion Science and Application」の題目でEdward Teller Medalを受賞(2003年9月)、中国国家天文台(National Astronomical Observatory, China)より「Pioneering Contribution on Laboratory Astrophysics」に対し名誉教授の名称を授与された(2006年6月)。また、本事業主催の国際会議、「第5回大阪大学国際フォーラム」(Sep. 27−Sept. 29, 2005, Hanoi, Vietnam)の主催総務責任者を勤めた。その会議集録をH.Takabe, N.H.Luong, and Y.Onuki, “Frontier on Basic Science towards New Physics, Earth and Space Science, and Mathematics”(Osaka University Press, 2006)として出版した。