大阪大学21世紀COEプログラム 究極と統合の新しい基礎科学 実績報告書

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事業推進担当者の活動報告 > 常深  博 理学研究科宇宙地球科学専攻・教授
常深 博 理学研究科宇宙地球科学専攻・教授 写真

X線検出技術開発・宇宙の解明

常深  博  理学研究科宇宙地球科学専攻・教授

役割/研究者招聘担当

1.研究活動

 宇宙高温プラズマの観測的研究を進めるために、世界トップレベルの観測装置の開発研究とそれを使った観測を進めている。この五年間にわたり、研究を進めた結果、国際会議での講演が40件、プレス発表2件、発表論文数は98編あった。

1)すざく衛星の打ち上げとX線CCDカメラによる観測

 2005年7月、日本で五番目のX線観測衛星が無事に軌道に載った。この衛星にはX線集光鏡と焦点面に配置した検出器などを搭載している。常深研究室は、京都大学、宇宙航空研究開発機構、MIT(米国)などと協力して、X線CCD カメラ(XIS)を開発した。XISは四台のカメラからなり、それぞれに有効面積が25ミリ四角のX線CCD 素子を一個ずつ持っている。そのうちの一個は、裏面照射型素子と言うもので、これまでになく低エネルギー領域までのX 線を検出できる。また、世界で初めて電荷注入端子を備え、これにより宇宙空間で起こる放射線損傷に起因する性能劣化を補償することが可能になった。衛星が軌道に載った後、放射線劣化は予想通りに進んだが、電荷注入により劣化速度はほぼ一桁改善することができ、打ち上げ当初に近い性能を維持している。打ち上げ後もXIS チームが一体となり、国際協力体制の下に、その性能較正や維持に努めており、順調に観測を進めている。XIS を使った観測は、他の衛星や望遠鏡との同時観測を含め、国際的にも広く行われており、すざく衛星内では一番多数の成果を挙げている。

2005年7月10日にすざく衛星は無事に
軌道に載りました。
Comparison of CCD cameras:
すざく、ニュートン、あすかによる
白鳥座ループのX線スペクトル。
すざくの低エネルギー側の性能の良さが判る。
  • X-Ray Imaging Spectrometers (XIS) on Board Suzaku, K.Koyama, H.Tsunemi, T.Dotani, M.W.Bautz, K.Hayashida, et al., Publ. Astron. Soc. Japan, 59, (2007), S23−S33
2)超新星残骸など宇宙高温プラズマの観測的研究

 宇宙空間に普遍的に広がる高温プラズマの研究を推進している。特に超新星残骸は、超新星爆発を起こした星の噴出物から星内部構造の研究、加熱された星間物質からの輻射を元にその元素組成やこれまでの進化の歴史を研究できる。観測は、チャンドラ衛星、ニュートン衛星、すざく衛星などを使って行っている。なかでも、比較的古い超新星残骸、白鳥座ループの観測を進めた。その内部には重元素に満ちた星からの噴出物が詰まっており、元の星の質量を推定できる。また、すざくの裏面照射CCD 素子による観測で、周辺の星間物質から、初めて炭素や窒素の輝線を検出した。これにより、周辺の星間物質の重元素が少ないことを確認したほか、場所によっては組成のかなり変化していることを発見した。

  • Detection of Highly-ionized Carbon and Nitrogen Emission Lines from the Cygnus Loop Supernova Remnant with the Suzaku Observatory, E.Miyata, S.Katsuda, H.Tsunemi, J.P. Hughes, et al., Publ. Astron. Soc. Japan, 59, (2007), S163−S170
  • The Plasma Structure of the Cygnus Loop from the Northeastern Rim to the Southwestern Rim, H.Tsunemi, S.Katsuda, N.Nemes, E.D.Miller, Astrophysical Journal, 671,(2007), 1717−1725
3)次期衛星を目指すX線CCD素子の開発研究

 我々はMAXI 計画を推進しており、そこでは我々の世界最先端のX線CCD 素子を国際宇宙ステーションに搭載する。MAXI 計画では、最終試験をほぼ終了した。2009年始めにはスペースシャトルによって国際宇宙ステーションに設置する予定になっている。このCCD 素子開発の一環として、シンチレータと組み合わせ、数十keV まで精度の高い観測のできる素子を開発した。これと名古屋大学で開発しているスーパーミラーとを組み合わせた気球観測を行い、将来の人工衛星を目指した開発を進めている。さらに、時間分解能が遅いというCCD 素子の欠陥を改良し、周辺回路の低消費電力や小型化を目指した専用のアナログASIC 開発も進めた。その結果、読み出し速度を従来に比べて一桁近く改善することができた。将来の観測衛星に使用するために、さらに空乏層が厚く、低エネルギー感度の高いカメラを開発している。これらの特徴を生かして、地上実験への応用も進めている。

完成状態の国際宇宙ステーション(想像図)。
中央部分には、日本の有人モジュール、きぼうが見え、それに曝露部パレットが接続され、
そこにMAXI を設置する。
  • Development of the X-ray CCD camera for the MAXI mission, H.Katayama, H.Tomida, M.Matsuoka, H.Tsunemi, et al., Nucl. Instrum. and Meth., A541, (2005), 350−356
  • Wide-band imaging spectrometer with scintillator-deposited charge-coupled device, E.Miyata, N.Anabuki, K.Mukai, et al., Nucl. Instrum. and Meth., A568,( 2006), 149−152
  • Development of an analog LSI for readout of X-ray CCDs, D.Matsuura, H.Ozawa, E.Miyata, H.Tsunemi, and H.Ikeda, Nucl. Instrum. and Meth., A570, (2007), 140−148
  • Development of a large format charge-coupled device (CCD)for applications in X-ray astronomy, H.Tsunemi, et al., Nucl. Instrum. and Meth., A579, (2007), 866−870

2.教育活動

 この5年間で大学院博士前期課程の大学院生22名が理学修士、後期課程の大学院生2名が理学博士の学位を取得した。

  • 田和憲明/“Temperature and Metallicity Profiles of Galaxy Clusters”(平成20年3月予定)
  • 勝田 哲/“X-Ray Studies of Evolved Supernova Remnants”(平成20年3月予定)

3.特記事項

 歴史上初めて起こった土星システムのかに星雲通過をチャンドラ衛星で観測した。この結果は、NASAのプレスリリース(2003年4月)となり、日本でも多数の新聞等で取り上げられた。2004年度には日本天文学会欧文研究報告論文賞(林田清)、第26回応用物理学会論文奨励賞(宮田恵美)を受賞している。さらに、チャンドラを使ったかに星雲観測結果を博士論文にまとめた森浩二君(現宮崎大准教授)が第21回井上研究奨励賞を受賞した。