大阪大学21世紀COEプログラム 究極と統合の新しい基礎科学 実績報告書

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事業推進担当者の活動報告 > 川村  光 理学研究科宇宙地球科学専攻・教授
川村 光 理学研究科宇宙地球科学専攻・教授 写真

フラストレート系と地震現象の統計物理

川村 光  理学研究科宇宙地球科学専攻・教授

役割/事業推進担当

1.研究活動

 協力現象の統計物理学を基盤として、フラストレート磁性体、スピングラス、地震現象等の研究を進め、その成果を26編の学術論文として公表した。また磁性国際会議(ICM)等の国際会議での招待講演、日本物理学会での招待(シンポジウム)講演等を行った。

1)スピングラスの秩序化とカイラリティ

 スピングラスは強磁性的相互作用と反強磁性的相互作用がランダムに混在し競合するランダム磁性体であり、所謂コンプレックス系の典型例として、特にその秩序化現象と非平衡ダイナミックスは近年の統計磁性物理の中心課題の1つになってきた。実験的なスピングラス転移を説明するためにスピン自体ではなくカイラリティと呼ばれるスピン構造の右・左を表す物理量が隠れた秩序変数としてスピングラス秩序を支配しているというカイラリティ仮説を提案し、その数値的検証を進めた。特にカイラリティ仮説で鍵となる「スピン?カイラリティ分離」現象の有無を明らかにするため3次元ハイゼンベルグ型スピングラスを対象とした大規模数値シミュレーションを行い、カイラリティ仮説を支持する結果を得た。

  • Monte Carlo study of the ordering of the weakly anisotropic Heisenberg spin glass in magnetic fields, D.Imagawa and H.Kawamura, Phys. Rev. Letters 92, 077204−(1−4)(2004).
  • Monte Carlo simulations of the phase transition of the three-dimensional isotropic Heisenberg spin glass, K. Hukushima and H.Kawamura, Phys. Rev. B72, 144416−(1−20)(2005).
  • Spin-chirality decoupling of three-dimensional Heisenberg spin glasses and related systems, H.Kawamura, J.Mag. Mag. Mater., 310, 1487−1493 (2007).
2)フラストレート磁性体の特異な磁気秩序化現象

 3角格子やパイロクロア格子等の所謂フラストレート磁性体においては、磁気的なフラストレーション効果のため、しばしばフラストレーションが無い場合とは異なった特異な秩序状態や新奇な磁気相転移現象が現れる。3角格子反強磁性ハイゼンベルグモデルではフラストレーション効果のため特異なボルテックス励起(Z2 ボルテックス)が存在するが、新たに双2次交換相互作用までを取り入れた解析を行い、この系のボルテックス秩序化の諸相を明らかにした。また3次元のフラストレート系として近年注目されているパイロクロア反強磁性体に関し、次近接相互作用が強い縮退を解いて秩序化を誘起する現象を数値的シミュレーションにより解析した。特に次近接相互作用が強磁性的な場合には、スピンの強い揺らぎを伴った特異な低温秩序相が実現することを見出した。

  • Novel ordering of the pyrochlore Heisenberg antiferromagnet with the ferromagnetic next-nearest-neighbor interaction, D.Tsuneishi, M.Ioki and H.Kawamura, J.Phys. Condens. Matter, 19, 145273−(1−6)(2007).
  • Vortex-induced topological transition of the bilinear-biquadratic Heisenberg antiferro-magnet on the triangular lattice, H. Kawamura and A.Yamamoto, J.Phys. Soc. Jpn, 76, 073704-(1-4)(2007).

 また、2005年−2007年にわたり、日本学術振興会によるロシアとの国際共同研究プロジェクト“Theoretical and experimental studies of the spin chirality”を日本側代表者として組織し成功裏に完遂した他、2004年には日本学術振興会による日仏共同セミナー“Frustrated magnetism and slow dynamics”を日本側代表者として組織し京都にて成功裏に開催した。

3)地震の時空間相関と数値シミュレーション

 地震の統計的諸性質に着目し、地震の統計モデルー所謂バネ・ブロックモデルやこれをさらに簡単化したOlami-Feder-Christensen モデルーに対する数値シミュレーションおよび実測地震カタログの解析に基づいた研究を進め、地震の統計的諸性質が断層構成則にどう依存するかを系統的に解析した。その結果、ドーナツ状の地震静穏化現象や大地震前後のB値の変化等の、大地震に相関した顕著な前駆現象を見出し、またその出現条件に関する知見を得ることが出来た。また「臨界性」と「固有性(周期性)」という、地震現象に係る一見相反する2つの性格がどのように出現するのかについて系統的な探索を行い、アスペリティ的な挙動が出現する条件に対する知見を得ることに成功した。

  • Simulation study of spatio-temporal correlations of earthquakes as a stick-slip frictional instability, T.Mori and H.Kawamura, Phys. Rev. Letters. 94, 058501−(1−4)(2005).
  • Simulation study of the one-dimensional Burridge-Knopoff model of earthquakes, T.Mori and H.Kawamural, J.Geophys. Res. 111, B07302 (2006).
  • H.Kawamura, in Modelling critical and catastrophic phenomena in geoscience: A statistical physics approach”, Springer, p.223−257 (2006).
  • Periodicity and criticality in the Olami-Feder-Christensen model of earthquakes, T.Kotani, H.Yoshino and H.Kawamura, Phys. Rev. E77, 010102(R)−(1−4)(2008).
地震のOFC モデルにおける地震イベント直前(a)と直後(b)のストレス分布。
アスペリティ的挙動が観測される。

2.教育活動

 この5年間で大学院博士後期課程の大学院生2名が理学博士の学位を取得した。

  • 今川大輔/“Monte Carlo studies of the ordering of Heisenberg spin glasses”(平成16年3月)
  • 森 隆浩/“Simulation Study of the Burridge-Knopoff Model of Earthquakes”(平成20年3月予定)

3.特記事項

 大学院生の森隆浩との共著論文 “Simulation study of spatio-temporal correlations of earthquakes as a stick-slip frictional instability” Phys. Rev. Letters. 94, 058501−(1−4)(2005) が、2005年度の大阪大学論文百選に選ばれた。

 フラストレート磁性分野最大の国際会議 Highly Furstrated Magnetism(HFM) を、2006年8月、組織委員長として大阪にて成功裏に開催した。

 平成19年度より5年間の予定で採択され発足した文部科学省特定領域研究「フラストレーションが創る新しい物性」において、領域代表を務めている。

Highly Frustrated Magnetism (HFM) 2006
コンファレンス[集合写真]