大阪大学21世紀COEプログラム 究極と統合の新しい基礎科学 実績報告書

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藤木 明 理学研究科数学専攻・教授 写真

反自己双対多様体のツイスター空間をはじめとするコンパクト非ケーラー多様体の研究

藤木 明  理学研究科数学専攻・教授

役割/事業推進・RA 担当

 コンパクト複素多様体論は、代数幾何学の主要対象である射影代数多様体の研究から始まった。これらに対しては、今日まで多くの一般的な構造定理がえられその分類論が展開されている。さらにHodge の調和積分論やDouady 空間のコンパクト性は、より広い族である(コンパクト)ケーラー多様体に対して適用でき、ケーラー多様体に対してもその一般的な構造論が展開されてきた。これに対し非ケーラーな多様体に対しては、一般論は基本的に存在せず、その研究は今後に待つところが多い。

 その中で、もともとPenroseによって導入され、Atiyah-Hitchin-Singerにより数学的に定式化されたツイスター空間は、コンパクトな場合にはそのほとんどが非ケーラーであることが知られており、その組織的な研究は、上記の観点からも大変興味深いものである。実際、このツイスター空間は(実)4次元の共形多様体である(反)自己双対多様体と一対一に対応する3次元の複素多様体であり、その構造を非常に具体的に研究できる対象である。

 本研究では表題のテーマに関して主に以下の3つの切り口から研究を行ったが、最初の1)、2)はこのツイスター空間に関するものである。なお2)はRomeIII 大学のM.Pontecorvo 教授との共同研究であり、懸案であった井上ーHirzebruch 曲面上の反自己双対双エルミート計量の存在をツイスター空間の方法を用いて示したものである。

1)Moishezonツイスター空間に対するcohomology消滅定理と代数次元

 一般的結果として、Moishezon ツイスター空間に対し変形のcohomological obstructions が消えることを示し、特にツイスター空間とその非特異な基本因子の対に対しその倉西空間が非特異となることを示した。さらにこれをJoyce のツイスター空間に適用し、以前に詳細に研究したこのツイスター空間の構造定理を最大限に活用して、それらの変形から代数次元が2のツイスター空間を構成した。

 上記の変形の障害の消滅定理は非常に一般なもので、今後もいろいろな応用が期待される。

 実際、この消滅定理は、2)で述べるM.Pontecorvo氏との共同研究によって示した、任意の井上ーHirzebruch 曲面に対する反自己双対双エルミート計量の存在定理の証明において基本的な役割を果たした。一方、自己双対計量の研究においては、複素射影平面有限個の連結和が特に重要な位置を占めており、対応するツイスター空間についてそのとりうる代数次元の値が問題となっていた。Donaldson-Friedman、LeBrun、Poon、Campana、Kreussler などにより徐々にそのとりうる値の範囲が特定され、5個以上の連結和の上に代数次元が2になるツイスター空間が存在するかが問題として残されていた。本論文では以前にJ.Diff.Geom.への掲載論文で研究したJoyceツイスター空間の構造を出発点にし、これを変形することにより、この問題を肯定的に解決した。

  • A.Fujiki, Twistor spaces of algebraic dimension two associated to a connected sum of projective planes, Compositio Math., 140 (2004), 1097−1111.
2)井上曲面上の反自己双対双エルミート構造の構成

 コンパクト非ケーラー複素曲面上の反自己双対エルミート構造は、VII 型の曲面の場合にもっとも興味があることが知られているが、よく知られているHopf 曲面の場合以外は、LeBrun によりblown-up Hopf 曲面と放物型井上曲面上に構成されたもの以外は知られていなかった。さらに以上の例では計量はすべて双エルミート構造を有している。一方、Pontecorvo により極小曲面に限ると、反自己双対双エルミート構造を許容する曲面は、以上のほか双曲型の井上曲面(even type の井上ーHirzebruch 曲面)に限ることが知られていた。Pontecorvo と共同の本研究では、逆に、すべての双曲型井上曲面の上に、自然な反自己双対双エルミート構造のm 個のm 次元族が構成できることを示した。(ただし、m は曲面の2次ベッチ数)また、この構成において双エルミート構造で互いに対応する双曲型井上曲面は互いにtranspositionの関係にあることを示した。この方法は、同様に放物型井上曲面や、より一般に、反標準束がeffective かつ非連結となる、必ずしも極小でない曲面に対しても適用でき、Pontecorvo の上記結果の逆が確立された。副産物として半井上曲面(odd type の井上ーHirzebruch 曲面)に反自己双対エルミート計量のm 次元族の存在が示された。(なお、双エルミート計量は一般化されたKahler 構造との関係からその構成が近年おおいに注目を集めている)

 これらの結果は、さらに対応するツイスター空間の構造、したがってまた対応するエルミート計量自身の構造について、多くの興味ある問題を提起した。特にわれわれの構成した放物型井上曲面の反自己双対構造とLeBrun のそれの比較や、Joyce の構成した必ずしもエルミートでない自己双対計量が、実はわれわれが双対型井上曲面上に構成した反自己双対計量に一致するのではないか、などは大変に興味があり、幾何学的にも豊富な内容を含んでいる。

 上記計量の構成は、以前に研究したJoyce ツイスター空間にDonaldson-Friedman の構成の一般化を適用することにより行われるが、実際の証明にはJoyce ツイスター空間の非常に詳細な構造を用いる。なおその構成の一部は以下の論文に発表した。

  • A.Fujiki and M.Pontecorvo, On Hermitian geometryof complex surfaces, 153−163, In: Complex, contact and symplectic manifolds, In honor of Vanhecke, Selected lectures from International Conference “Curvature in Geometry” (Ed. O. Kowalski et al.) Progress in Math, 234, Birkhauser, Boston, Inc, Boston, MA, 2005.
3)Klein 群に付随した非ケーラーなコンパクト3次元複素多様体の構成とその性質

 非ケーラーなコンパクト複素多様体の構成はまだまだ今後の研究に待つことが多い問題である。本研究では、概等質なものの中にそれらを求めるという問題意識から出発して、射影線形群G=PSL2C が概等質に作用する3次元のこのような複素多様体を、幾何学的有限かつ放物元を持たない任意のKlein 群から出発して構成しそれらの性質を調べた。これらは対応する実3次元双曲多様体を境界つき多様体としてコンパクトしたいわゆるKlein 多様体上(境界上退化した)ファイバー空間となっており、それら実多様体の構造と深く関連している。これらはKlein 群が初等的であるというもっとも単純な場合をのぞけば、以前には知られていなかった新しい複素多様体の例を与えている。

 さらにこれら「複素Klein 多様体」の幾何学的構造を研究し、そのベッチ数、チャーン数などの幾何学的不変量を計算した。また、これらの多様体は、すべての3次元の(コンパクト)Gー複素多様体の中で、Gー不変複素射影構造を持つものとして特徴付け、これを用いて、このような多様体が自己双対多様体のツイスター空間になる場合を決定した。すなわちこれらはKlein 群がFuchs 群ないしFuchsian-Schottky 群になる場合に他ならない。またGhys よるGー等質空間の研究に触発され、上記の多様体の複素構造の変形を考察し、たとえば上記のFuchsian-Schottky 群の場合には、ツイスター空間に対するHitchin 消滅定理から変形の障害の消滅定理を導いた。

 G= PGLnC としたときの高次元の類似の構成は原理的に困難であるが、Nori やSeade-Verjovski などの複素Schottky 群の場合の研究をもとにして、散発的ではあるが高次元の例をも構成した。

 また、別の方向であるが、代数次元が2となるコンパクトGー複素多様体を決定した。

  • A.Fujiki, Compact non-Ka¨hler threefolds with SL2C-actions, http://www.cirm.univ-mrs.fr/web.ang/videos/2006/2006_liste_rencontres.html