大阪大学21世紀COEプログラム 究極と統合の新しい基礎科学 実績報告書

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事業推進担当者の活動報告 > 小磯  憲史 理学研究科数学専攻・教授
小磯 憲史 理学研究科数学専攻・教授 写真

不規則現象の数学

小磯  憲史  理学研究科数学専攻・教授

役割/事業推進・セミナー担当

1.研究活動

 COE の5年間、主に3つの課題について研究を行った。いずれも部分多様体の変分問題に関するものである。

1)弾性曲線の運動方程式

 弾性曲線の運動についての研究は杉本充氏との共同研究で、COE 期間以前から行っていた。COE 期間は研究の整理と証明の精密化を中心に行った。

 平面弾性曲線の運動についてはR.Caflish & J. Maddocks (1984) によって解の存在が明らかになっている。その証明は方程式を接線の角度の方程式に変換することにより準線型波動方程式と積分方程式の複合型に変換することによって行われている。しかしながら、空間弾性曲線の運動にこの結果を拡張するには単なる平面角を立体角に拡張しなければならず、その困難のために長い間発展がなかった。

 この研究では、立体角を用いる代わりに微分幾何学的に共変微分を用いて、単位円を単位球面に拡張するという単純な観点を導入した。そのことによって、形式的にはR.Caflish & J.Maddocks の証明が自然に拡張される。平面の場合と異なり空間曲線ではその曲率積分の評価が自明でないなどの困難は生じたが、微分幾何学的な手法によってそれらを克服することができた。

 その結果、一般次元のEuclid 空間において、閉弾性曲線の波動型運動方程式は任意の初期値に対して無限時間の解を持つことを示すことができた。なお、この結果はある種の条件をみたす端点をもつ曲線の場合に拡張することができる。

 現在は証明においてEuclid 空間の線型性を用いているため、結果を一般のRiemann 多様体に拡張することは容易ではない。今後の課題として残っている。

  • PDE and Differential Geometry, The 14-th MSJ International Research Institute “Asymptotic Analysis and Singularity”(Sendai, 2005)
  • 太さを持つ弾性曲線の運動について、 曲線と曲面の非線型解析(大宮、2005)
  • PDE and differential geometry in study of motion of elastic wires, Advanced Studies in Pure Mathematics 47−2 (2007)441−450.
2)極大極小部分多様体

 Euclid 空間における単位円は幾何学的に見て極めて自然な図形であり、ただ一つの安定な閉弾性曲線という特徴づけを持つ。しかしながら、その高次元版:余次元の大きい単位球面にたいしては性質の良い変分問題が定義されていなかった。それに対して、適切な意味で「囲む体積」を指定して面積を最小にするという条件付き変分問題の解として特徴づけることができるのではないかという問題意識がこの課題の出発点である。

 正確な定義は、一般のRiemann 多様体において、次のようになる:
 “指定されたn +1次元体積Vを持つ極小部分多様体Bn+1のうち、その境界の体積が最小であるものは何か?”


この変分問題では本来の研究対象である「境界」以外にそれを張る極小部分多様体の変分も同時に考えないといけないという困難があるが、Euler-Lagrange方程式自体は容易に導出でき、標準例である余次元の大きい単位球面はその解になっていることが示される。

 さらに、標準的でない例やより興味のある安定性と一意性についても次のようなことが明らかになった。

  1. 螺線面の2つの交わらない漸近曲線は、それが囲む部分に対して等質でない極大極小部分多様体となる。
  2. 極小錐と単位球の交わりは、それが囲む極小錐の領域に対して特異点を持つ極大極小部分多様体となる。
  3. 3次元Euclid 空間において、円板と同相な領域に対する極大極小曲線は丸い円に限る。
  • 任意次元の部分多様体の変分問題、 研究集会“東北シンポジウム”(東北大学、2004)
  • 最大の極小曲面の境界、幾何学シンポジウム(都立大学、2004)
3)離れた曲線を繋ぐ極小曲面

 十分離れた平行な2つの円は懸垂曲面で繋ぐことはできないという事実は古くから知られている。この事実は「錐定理」(U.Dierkes, S.Hildebrandt, A.Kuster, O.Wolhrab)によって拡張されており、円に限らず任意の2つの閉曲線に対しても同じことが成り立つ。さらに、錐定理をうまく適用すると、実は5つまでの閉曲線に対しても同じことが示せるのであるが、6つの閉曲線では錐定理だけでは証明ができない。

 本研究では、まず鍵の定理として、錐定理自身を拡張した「非対称錐定理」を証明した。もとの錐定理は特定の角をもつ2つの錐に含まれる閉曲線は分離されるという主張であるが、非対称錐定理は異なる角をもつ2つの錐に対して同様のことを主張する。ここで、1つの錐が細くなって半直線に近づくとき、もう1つの錐は太くなって半空間に近づく。

 これを利用することにより、任意個数の閉曲線に対しても2個の場合と同様な結果が得られた。即ち、空間の有限個の点の配置{ Pi } に対して、次の性質を持つ定数r >0が存在する:各Pi を中心として半径r 以下の球Bi があり、その中に閉曲線Γi があれば、その和集合∪iΓi を境界とする完閉極小曲面は∪i Bi に含まれる。

 この結果はさらに一般次元の非正定曲率空間まで拡張することができた。同じ結果が一般の非正曲率空間でも成り立つと期待されるが、現在の証明は定曲率空間において回転極小曲面が常微分方程式の解で記述されることに依拠しており、今後の課題である。

 また、現在の証明では定理に表れるr の数値的な評価はあまりよくないと考えられる。評価の改善は今後の課題である。

  • 多くの曲線を張る連結極小曲面の非存在、研究集会“曲線と曲面の変分問題と発展方程式”(湯沢、2005);講演記録集46−48.
  • 離れた曲線を繋ぐ極小曲面の非存在について、(東北大学セミナー、2006)
  • Connection of distant curves by a minimal surface,( 清華大学数学系科学談話会、2007)

2.教育活動

 大学院前期課程において以下の学生を指導した。

  • 秋山 崇/“正多面体上のYang-Mills 接続”(2004年3月)
  • 河田貴久/“S 3の等質Yang-Mills 接続について”(2004年3月)
  • 大礒影裕/“Lie 群上の左不変ハミルトン力学系”(2005年3月)
  • 新井秀祥/“太陽、地球、月をモデルとしたある周期解族の形の変化を調べるある方法”(2006年3月)
  • 菅原貴子/“平均曲率一定の2次の無限小変形の例について”(2007年3月)
  • 成川哲士/“平均曲率一定超曲面の安定性について”(2008年3月予定)