大阪大学21世紀COEプログラム 究極と統合の新しい基礎科学 実績報告書

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事業推進担当者の活動報告 > 伊吹山  知義 理学研究科数学専攻・教授
伊吹山 知義 理学研究科数学専攻・教授 写真

多変数保型形式と整数論の研究

伊吹山  知義  理学研究科数学専攻・教授

役割/事業推進担当

1.研究活動

1)次数2の志村対応予想とHarder予想

 半整数ウェイトと整数ウェイトの1変数保型形式の間のゼータ関数を通じた対応は志村対応として有名である。この高次元版は全く知られていない。しかし今回、この一般化として、次数2のベクトル値ジーゲル保型形式について、次元公式の一致および豊富な実験例を根拠に離散群とウェイトの関係を指定した1対1対応の精密な予想を提唱した。ここでは、一方がスカラー値であっても、他方はベクトル値になるなど、ベクトル値の保型形式が本質的な役割を果たしている。この過程で半整数ウェイトの保型形式加群の構造なども明らかにした。以上の応用として、ベクトル値ジーゲル保型形式と1変数保型形式の固有値の合同に関するHarder 予想の半整数ウェイト版を提唱した。これは元のHarder 予想と異なりジーゲルカスプ形式とKlingen Eisenstein 級数の間のL関数の合同として述べることができ、通常のpullback formula よる予想の証明方針をも示唆している。

  • T.Ibukiyama, Siegel Modular Forms of Weight Three and Conjectural Correspondence of Shimura Type and Langlands Type, The conference on $ L $ -functions, edited by L.Weng and M.Kaneko, World Scientific. (2007), 55−69.
  • S.Hayashida and T.Ibukiyama, Siegel modularforms of half integral weight and a lifting conjecture, J.Math. Kyoto Univ. Vol.45 No.3 (2006), 489−530.
2)低いウェイトのジーゲル保型形式の次元公式

 保型形式の次元については、ウェイトが十分高いときは跡公式またはリーマン・ロッホの定理による一般的な計算方針の理論がある。 実際、筆者は任意の次数のジーゲル保型形式について、ねじれのない主合同部分群については完全に具体的な次元公式予想を、かなり以前から提唱している。 しかし、ウェイトが低いときには理論はなかった。たとえば次数2のジーゲル保型形式でウェイトが3以下の時に次元を求めるのは困難と思われていた。 しかし、今回思いがけぬところから、ウェイト1と3の次元が明らかになった。まず、Poor and Yuen は次数2のヘッケ型の群では、 レベル97まではウェイト1のカスプ形式は存在しないという結果をフーリエ係数の消滅定理など用いる数値的な計算により証明した。 この結果に触発されて、任意のレベルでウェイト1は存在しないことを証明した。この後、つぎのように進んだ。まず次数が1の場合、 群のレベルとindex が素ならば、ウェイト1のヤコービ形式は存在しない、等のヤコービ形式の構造定理を用いることにより十分大きい離散群 (パラホリック型)についてはベクトル値ウェイト1の次元が0であることを証明し、これと中間次数のコホモロジーの障害の消滅を関係付けることにより、 ウェイト3の次元を、Riemann-Roch-Hirzebruch の定理とLefschetz の定理を応用することにより計算した。これは25年以上前に予想されたヘッケ型の離散群の次元公式の証明を含む。 これらの結果によりパラホリック型で次元が不明なウェイトは2だけになった。この公式とコンパクト実形の保型形式の次元を比較することにより、 主偏極アーベル曲面のモジュライ内での超特異アーベル曲面の軌跡の既約成分の個数がウェイト3のパラモジュラー保型形式の次元と等しいことを証明した。

  • T.Ibukiyama and N.-P.Skoruppa, A vanishing theorem of Siegel modular forms of weight one, Abhand. Math. Sem. Univ. Hamburg No.77 (2007), 229-235.
  • T.Ibukiyama, Dimension formulas of Siegel modular forms of weight 3 and supersingular abelian varieties, in Proceedings of the 4-th Spring Conference, “Siegel Modular Forms and Abelian Varieties” ed. by T.Ibukiyama (2007), 39−60.
3)Langlands対応の研究

 次数2のパラモジュラー保型形式とコンパクト実形の間の具体的なEichler-Langlands 型の対応予想を以前より提唱していたが、これを今回、ベクトル値ジーゲル保型形式の次元を新たに計算して比較することにより、ベクトル値の場合を込めて、より精密な予想として提唱した。

  • T.Ibukiyama, Paramodular forms and compact twist, in Automorphic Forms on GSp(4), ed. by Furusawa, (2007), 37−48.
4)Koecher Maass級数の研究

 保型形式に付随するディリクレ級数としては、ヘッケ作用素の固有関数から決まるオイラー積表示を持つものが主として考えられている。しかしこれ以外にも保型形式を直接Mellin 変換して得られるKoecher-Maass 級数があり、これは概均質ベクトル空間のゼータ関数に似て、オイラー積は持たないが関数等式は持ち、更にはフーリエ係数の情報を多く含むなどの特徴がある。この間の一連の研究の中で、Eisenstein 級数、Klingen Eisenstein 級数、Ikeda lifting で得られる保型形式のKoecher-Maass 級数を既存のゼータ関数で具体的に書く公式を与え、このようなディリクレ級数のある意味での正統性を確立した。

  • T.Ibukiyama and H.Katsurada, Koecher-Maass Series for Real Analytic Siegel Eisenstein Series, in Automorphic Forms and Zeta Functions ed. by S.Boecherer, T.Ibukiyama, M.Kaneko, F.Sato, World Scientific (2006), 170−197.
  • T.Ibukiyama and H.Katsurada, An explicit formula for the Koecher-Maass Dirichlet series for the Ikeda lift, Abhand. Math. Semi. Univ. Hamburg no.74 (2004), 101−121.
5)保型形式環と微分作用素およびBorcherds積の研究

 次数2のジーゲル保型形式環の構造は全ジーゲルモジュラー群については1960年代よりIgusa により知られており、4つの代数的独立元と5個目の構成が複雑な保型形式により生成される。この複雑な5個目の構成を単純な微分作用素による構成に書き換えた。更にはレベル2、3、4のヘッケ型の離散群では、環は全く類似の構造をしていることを証明し、5つ目の生成元について微分作用素およびBoecherds 積による2種類の構成を与えた。なお、ここで使用したような領域の制限に対して保型的に振舞う微分作用素を、不変多重調和多項式で特徴付ける一般論を以前より与えていたが、これは、Gegenbauer 多項式の自然な一般化を含むなど非常に面白い多変数特殊関数になっている。これに関連した多変数版の直交多項式系、母関数、ホロノミー系の一般解、等の研究を行った。

  • H.Aoki and T.Ibukiyama, Simple Graded Rings of Siegel Modular Forms, Differential Operators and Borcherds Products, International J.Math. Vol.16 No.3 (2005), 249−279.
6)その他の研究

 特定の条件を満たすエータ関数の積のフーリエ係数がすべて0以上であるというK.Saito の予想を、素数レベルの場合に、包含関係にある2つの格子のテータ関数の差で表示することにより証明した。

  • T.Ibukiyama, Positivity of eta products-a certain case of K. Saito’s conjecture, Publication RIMS 41 No.3(2005), 683−693.

 また、次の研究集会を主催した。

  • “Modular Forms and Related Topics”(平成16年2月16日〜20日、参加77名、内外国人18名)
  • “Automorphic Forms and Zeta Functions”(平成16年9月4日〜7日)
  • “Differential operators on Siegel modular forms and application”(平成16年10月24日〜30日、参加34名、内外国人2名)
  • “Siegel Modular Forms and Abelian Varieties”(平成19年2月5日〜9日、参加52名、内外国人12名)
  • Oberwolfach Workshop “Modulformen”(平成19年10月29日〜11月2日ドイツOberwolfach研究所、参加24名、内外国人17名)

 これらに関連して英文報告集5編を編集ないしは出版した(総ページ数985ページ)。

2.教育活動

 この5年間で大学院博士後期課程の大学院生4人が理学博士の学位を取得した。

  • 岡崎武生/“Proof of R.Salvati Manni and J.Top’s conjectures on Siegel modular forms and Abelian surfaces”(平成16年3月)
  • 若槻 聡/“Igusa local zeta functions of prehomogeneous vector spaces with universally transitive open orbits”(平成17年3月)
  • 京村亮二/“Vector Valued Jacobi Forms of Halfintegral and Integral Weight.”(平成18年3月)
  • 水野義紀/“Explicit Forms of Koecher-Maass series and their Applications.”(平成18年3月)

 また、10人が理学修士の学位を取得または取得予定。

3.特記事項

 日本学術振興会科学研究費、基盤研究A2件、萌芽研究2件(5年間の期間中、総額3,390万円)を受給した。外国人研究者を15回招聘し、海外での成果発表ないしは研究打ち合わせを16回行った。