大阪大学21世紀COEプログラム 究極と統合の新しい基礎科学 実績報告書

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事業推進担当者の活動報告 > 鈴木  貴 基礎工学研究科システム創成専攻・教授
鈴木 貴 基礎工学研究科システム創成専攻・教授 写真

非平衡統計力学の数学的理論

鈴木 貴  基礎工学研究科システム創成専攻・教授

役割/事業推進担当

1.研究活動

 研究の中心はアナリシスであり、解の爆発・界面などの本質的非線形・非平衡現象を数理モデルによって数学的に解明することを主目的としている。本プロジェクトでは星雲・恒星・プラズマなどの自己相互作用流体、電子や化学物質・熱エネルギーなどの輸送現象、極限状態でミクロに誘起される超伝導・凝縮・乱流、マクロな臨界状態である相転移・相分離・ヒステリシス、生命を支配する走化性と腫瘍形成、幾何的計量の変形を記述するnormalized Ricci flow 等、様々な問題に共通する双対変分構造を明らかにし、非線形性と非平衡性によって支配される量子化する爆発機構を、平均場階層に基づくスケーリングと自己相互作用に基づく場と粒子の双対性を主導原理とする新しい解析方法によって解明した。国際会議での招待講演は19件(内基調講演2件)、発表論文は52編である。

1)双対変分原理の発見

 細胞性粘菌の走化性を記述する方程式・自由エネルギーから導出される熱力学の現象論的方程式・自己重力流体の運動方程式など場の形成を 介在とする自己相互作用力の下で非平衡平均場の運動を記述する基礎方程式が、ゲーム理論で導入された「ラグランジュ汎関数」による双対的な変分構造によって統一的に記述されることを示した。 またゲージ理論・乱流理論・腫瘍形成等で現れる非線形方程式が、これらの双対変分構造を持つ方程式系から、質量・温度・エネルギーなどの保存量と、 断熱極限・平衡状態・空間的凝縮などの平均場階層に注目して縮約されたものであることを明らかにした。双対変分原理により、様々な場と粒子の相互作用を記述するこれらの方程式系において、 定常解の安定性・解の爆発と創発・遷移的秩序形成など本質的に非線形・非平衡の現象が数学的に統一的に解明されることを示した。

2)量子化する爆発機構の解明

 非線形問題において解がある時間やパラメータを越えて延長できなくなることは「爆発」と呼ばれている。 「凝縮」は爆発に際し解が空間的に局所化する現象である。一連の非線形問題では局在の状態が基底状態のコピーとして実現されることを、 自己相似変換に基づくスケーリングを用いて解明し、これを「爆発機構の量子化」として定式化した。これらは非線形固有値問題であるゲージ理論・渦度平均場方程式(空間2次元)、 自由境界問題である定常自己重力流体方程式(空間3次元)、物質輸送に関するSmoluchowski-Poisson 方程式(空間2次元非定常)である。 一連の研究から場の定常問題が爆発機構を含む粒子の非定常状態を規定していることを明らかにし。「非線形スペクトル理論」として、 双対変分原理とともに非線形・非平衡現象を理解する主要な要因のひとつであることを示した。

3)非線形問題の数学的研究

 非線形スペクトル理論と双対変分原理を用いてnormalized Ricci flow・非局所放物型方程式・臨界指数放物型方程式・記憶形状合金・ダム問題・退化放物型方程式・解の爆発集合・解のextinction など様々な問題の理論研究を行い、解の爆発機構・不安定定常解がもたらす遷移的ダイナミクス・コラプスやサブコラプスの形成とこれらの衝突など、数理的に深い原理を用いて複雑な現象を数学的に解明した。これらの成果により1)非線形問題の基盤となる階層や双対性に着目することによって定常問題が統一的に定式化されること、2)時間発展の相違によって非平衡状態が異なる様々な数理原理に従うことが、従来の数学解析に新しい位置づけを与え、新たな数学的解析法として開発することによって解明されること、すなわち非平衡・非線形現象の諸相を解析する手段の開発や解の挙動予測を行う新しい研究方法を確立した。

2.教育活動

 学生の得意分野を生かして、モデリング・数学解析・スキーム開発・数値実験など数理科学の幅広い研究に対応できる人材の育成をおこなった。扱った研究テーマは1)非平衡熱力学の原理に従って導出される、相転移・相分離・記憶形状などの臨界現象を記述する現象論的方程式の数理構造の解明とそれに基づく定常問題の定式化・定常問題の解の存在と安定性、2)渦点・渦糸乱流の新しい平均場方程式の導出と数学解析、3)自己双対ゲージ理論に現れる非線形問題のスケーリング則を用いた爆発解析による爆発機構の証明、4)線形化非退化性に関する領域の形状の影響についてのロバン関数を用いた両者の精緻な対応、5)非定常Smoluchowski-Poisson 方程式における双対変分構造の解明と非局所項をもつ放物型方程式への帰着、およびその量子化しない爆発機構の解明、6)腫瘍形成の数理モデリングと数学解析、7)自己重力流体方程式の定常状態の質量量子化の解明と非定常問題に対する基本定理の確立、8)平衡最適化の理論確立と脳磁図分析・音源定位への応用等である。この5年間で博士(理学)の学位を取得したのは大学院博士後期課程の大学院生3名である。

  • 佐藤友彦/“Studies on the nonlinear elliptic equation arising in self-dual gauge, point vortices, and ignition”(平成18年3月)
  • 山岸弘幸/“リーマンゼータ関数、ベルヌーイ多項式とソボレフ不等式の最良定数”(平成18年3月)
  • 宮下鋭也/“Studies on a mean field parabolic equation and its attractor”( 平成17年3月)

3.特記事項

1)[1] において証明した爆発機構の量子化と、そこで展開したスケーリングと双対性に基づく非線形問題の革新的な解析方法は、非線形解析に携わる研究者の国際共同体に大きな衝撃を与え、特にアメリカ数学会学会誌は同書に対して7ページに渡る解説を掲載した[2] その後、これらの方法や現象が臨界指数型非線形方程式・自己相互粒子系平均場・ゲージ理論・非平衡熱力学現象論的方程式など、多くの問題に共通する原理として結実されることが明らかにし、投稿先の雑誌等からも高い評価を受けた。

2)非線形偏微分方程式・数理医学・応用解析学に関する教育・研究一環として教科書[3、4] を出版するとともに、各種ハンドブック[5、6、7]・辞典(岩波、朝倉)に非線形・非平衡現象に関する数学研究の現況を俯瞰して記述した。自己組織化ハンドブックでは自己組織化の二つの側面、近平衡と遠平衡のうち前者が非平衡熱力学的変分構造に由来する現象であることを明らかにして、自己組織化における近平衡の役割(自己集合理論)の確立に数学の立場から寄与した。

3)基礎工学研究科未来研究ラボ“非線形ダイナミクス”ラボ長(平成19年度)・日本応用数理学会数理医学研究部会主査(平成16年度設立)として学会におけるオーガナイズドセッションや、部会連合発表会などの各種研究会を開催し、基礎科学や応用科学における数理的諸問題の発掘・解析的方法の開発をおこなった。また毎年“東アジア偏微分方程式会議”、京都大学数理解析研究所研究集会“変分問題とその周辺”、理論応用力学連合講演会オーガナイズドセッション“自己相互作用流体の物理現象と数学解析”を主催し、非線形偏微分方程式研究のネットワーク育成を行った。

  • [1]T.Suzuki, “Free Energy and Self-Interacting Particles”, Birkh\”auser, Boston, 2005.
  • [2]‘Book Review’, Bull. Amer. Math. Soc. 44( 2007) 139−145.
  • [3]上岡友紀・鈴木貴、“偏微分方程式講義:半線形楕円型方程式入門”、培風館、東京、2005.
  • [4]T.Senba and T.Suzuki, “Applied Analysis”, Imperior College Press, London. 2004. 378p.
  • [5]T.Suzuki and F.Takahashi, “Nonlinear eigenvalue problem with quantization”, Handbook of Differential Equations, Chipot, M., Quittner, P. (eds.), Elsevier Science Publishers, Amsterdom, in press.
  • [6]鈴木貴、“楕円型方程式”、Handbook of Applied Analysis、東京スプリンガー、東京、印刷中.
  • [7]鈴木貴、“血管新生ー数理の立場から”、自己組織化ハンドブック、エヌ・ティー・エヌ、東京、印刷中.