大阪大学21世紀COEプログラム 究極と統合の新しい基礎科学 実績報告書

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事業推進担当者の活動報告 > 松村 昭孝 情報科学研究科情報基礎数学専攻・教授
松村 昭孝 情報科学研究科情報基礎数学専攻・教授 写真

保存則系の粘性モデルや緩和モデルの時間大域解の存在とその漸近挙動

松村 昭孝  情報科学研究科情報基礎数学専攻・教授

役割/事業推進担当

1.研究活動

 保存則系の粘性モデルの典型である圧縮性粘性流体の方程式系や、緩和モデルの典型である半導体の流体モデル等の初期値問題や初期・境界値問題の時間大域解の存在とその時間に関する漸近挙動について考察を行った。

1)圧縮性粘性流体の方程式系(圧縮性ナヴィエストークス方程式)の研究

 圧縮性粘性流体の空間一次元等エントロピーモデル(保存則系の粘性モデルの典型的2×2システム)に対する半空間上での初期・境界値問題、 特に、境界上で流れ込みが有る場合の解の漸近挙動の研究を進め、適当な条件の下で境界層解と粘性衝撃波との重ね合わせの波の漸近安定性を示すことに成功し ([1])、また、境界の上で相転移などの反応が起こる場合の自由境界値問題についても、進行波の存在とその漸近安定性を示すことに成功した([2]、[3])。 次に、圧縮性粘性流体の空間一次元理想気体モデル(3×3システム)に対する半空間上での初期値境界値問題を考察し、 非粘性3×3システムに固有な接触不連続解に対応する粘性的接触波の漸近安定性を自由境界の境界条件の下で示すことに成功した([4])。 さらに、一次元理想気体モデル(3×3システム)に対する初期値問題についても考察を進め、粘性的接触波の漸近安定性を初期擾乱の平均ゼロの条件の下で示すことに成功した([5])。 この初期値問題については、長い間未解決な問題として知られていたものであったが、方程式系を一度積分した系に対して巧みなエネルギー法を適用してこれを可能とした。 これを切っ掛けとして、最近は、一次元理想気体モデル(3×3システム)に対する初期値問題に対し、 これまで結果が得られてこなかった粘性接触波と粘性衝撃波や希薄波等の複数の非線形波の合成波の漸近安定性についても研究が進みつつある。 その一つとして、非粘性部分のオイラー方程式のリーマン問題が接触不連続波と希薄波で構成される場合、 対応する粘性接触波と希薄波の一次結合の合成波がその波の強さが適当に小さければ漸近安定であることが証明された(論文準備中)。 また、境界の解の挙動への影響を見るための基本である単独の一次元粘性保存則系の半空間上での初期・境界値問題を考察し、 これまであまり考察されていなかった流束が凸関数でない場合についても、定常境界層解と希薄波の合成波が漸近安定であることを希薄波が適当に小である条件下で示した([6])。

  • [1]Viscous shock wave and boundary layer solution to an inflow problem for compressible viscous gas, F.Huang A.Matsumura and X.Shi: Commun. Math. Phys. 239(2003), 261−285.
  • [2]A gas-solid free boundary problem for compressible viscous gas, F.Huang, A.Matsumura and X.Shi: SIAM J. Math. Anal. 34(2003), 1331−1355.
  • [3]Viscous shock wave to a gas-solid free boundary problem for compressible viscousgas, F.Huang, A.Matsumura and X.Shi: SIAM J. Math. Anal., Vol.36, No.2, 498−522 (2004)
  • [4]On the stability of contact discontinuity for compressible Navier-Stokes equations with free boundary, F.Huang, A.Matsumura and X.Shi: Osaka J. Math. 41(2004), 193−210.
  • [5]Stability of contact discontinuities for the 1-D compressible Navier-Stokes equations, F.Huang, A.Matsumura and Z.Xin: Arch. Rat. Mech. Anal. 179(2006), 55−77.
  • [6]Large-time Behavior of Solutions to an Initial-boundary Value Problem on the Half Line for Scalar Viscous Conservation Law, I.Hashimoto and A.Matsumura: Met. Appl. Anal.14(2007), 45−60.
2)半導体の流体モデル方程式系の研究

 半導体方程式の量子流体モデル(緩和項が付加されたオイラー方程式とポアソン方程式の連立系にさらに量子効果を現わすボームポテンシャル項を加えたもの) に対する定常解の存在と安定性の問題を全空間上で考察した。一次元モデルでは、無限遠方での状態が亜音速のみならず、超音速になっても量子効果により定常解が存在して、 この定常解は漸近安定であること([7])、また緩和時間零極限において解は移流・拡散モデルの解に漸近することを示すことに成功した([9])。 これらの結果はドーピングプロファイルと呼ばれる外部電荷密度が小さいという条件の下のものであるが、 量子効果を考慮しないモデルを有界区間上で周期境界条件で考察する初期・境界値問題では、任意に大きなドーピングに対しても対応する定常解が漸近安定であることを示した([8])。

  • [7]Existence and stability of steady-state of one-dimensional quantum Euler-Poisson system for semiconductors, H.Li, F.Huang and A.Matsumura: J.Diff. Eqn. 225(2006), 1−25.
  • [8]Asymptotic behavior of solutions for a fluid dynamical model of semiconductor equation, A.Matsumura and T. Murakami: RIMS, Kokyuroku, Kyoto Univ. 1495(2006), 60−70.
  • [9]The relaxation-time limit in the quantum hydrodynamic equations for semiconductors, A.Juengel, H.-L.Li and A. Matsumura: J.Diff. Eqn. 225(2006), 440−464.
3)国内外での主たる発表

(1) 流体および量子効果を入れた流体の方程式系の周辺;2003年冬の学校基調講演、21世紀COEプログラム、「究極と統合の新しい基礎科学」、2004年2月15日
(2) Asymptotic behavior of solutions in the half space for 1-D compressible Navier-Stokes equations; Chinese Academy of Science, Institute of Applied Mathematics, Analysis Seminar, 2004年10月26日
(3) Asymptotic behavior of solutions for a fluid dynamical model of semiconductor equation;第22回九州における偏微分方程式研究集会、九州大学 箱崎キャンパス 国際ホール、2005年1月27日
(4) Asymptotic behavior of solutions for a fluid dynamical model of semiconductor equation;数理解析研究所、共同研究集会「流体と気体の数学解析」、2005年、7月12日
(5) Large Time Behavior of Solutions for Onedimensional Compressible Navier-Stokes Equations ; Osaka University-Asia Pacific-Vietnam National University, Hanoi Forum 2005, 2005年9月28日
(6) Large time behavior of solutions of some onedimensional models related to compressible fluids;第二回流体と保存則の研究集会、東京工業大学大岡山キャンパス、2006年10月17日
(7) Asymptotic stability of a composite wave of two viscous shock waves for the equations of onedimensional motion of the viscous and heat-conductive gas ; Workshop on Mathematical Analysis on Nonlinear Phenomena in honor of Professor Atusi Tani on the occasion of his 60th birthday, 慶應義塾大学, 2006年12月20日
(8) 単独粘性保存則に対する半直線上のある初期値境界値問題について;橋本伊都子との共同講演、2007年度 日本数学会 秋期総合分科会、2007年9月23日
(9) 一次元粘性保存則系の解の長時間挙動;粘性気体の方程式系を軸に、I, II 〈Survey Lecture〉、研究集会「微分方程式の総合的研究」、東京大学数理科学研究科、2007年12月14日〜12月15日

2.教育活動

 この五年間で、博士前期課程の院生6名が修士学位(情報科学)を取得し、博士後期課程の院生2名が博士の学位(理学)を取得した。
修士号:

  • 富士田 覚/“第二種変分不等式の精度保障付き数値計算?塑性的流体の定常問題への応用?”(平成16年3月)
  • 下川淳二/“1次元保存則系に対するエントロピー保存スキームと最小人工粘性について”(平成17年3月)
  • 松崎祐典/“半導体の電子流体モデルに対するSLICスキームの適用と定常解の考察について”( 平成17年3月)
  • 村上尊弘/“ 半導体を記述するある流体力学モデルの解の漸近挙動について”(平成17年3月)
  • 北側真敬/“ 単独粘性保存則に対するある初期値境界値問題の大域解の漸近挙動”(平成18年3月)
  • 北川義規/“ 一次元単独粘性保存則に対する初期値問題の大域解の漸近挙動”(平成19年3月)

博士号:

  • 竹之内芳文/“A bifurcation phenomenon for the periodic solutions for the duffing equation without damping terms”(平成16年3月)
  • 砂川秀明/“Large time behavior of solutions to systems of nonlinear Klein-Gordon equations”(平成16年3月)

3.特記事項

  • 早稲田大学西原健二氏と「非線形微分方程式の大域解ー 圧縮性粘性流の数学解析ー」、日本評論社、数理物理学シリーズ(2004年)を出版。
  • 第10回双曲型問題に関する国際会議(Tenth International Conference on Hyperbolic Problems)をHOTEL HANKYU EXPO PARK, Osaka において、 9月13日より9月17日に開催した。この国際会議は、双曲型偏微分方程式の数学理論・計算・応用すべての側面について、それらに携わる研究者たちが一堂に集まり、最新の研究成果を発表し、 討議し、さらに将来の展望を得ることを目的とし、1986年以来隔年ごとに世界各地で開催されてきたものである。今回、大阪において国内外より200名近い参加者(海外から120名程)を得たことにより、 本文野の重要性を日本の数学界(純粋・応用)に訴えることができた。