生体中では様々な分子が存在しており、それらの動きによって生命活動が担われています。ナノメートルサイズの分子の動きを実際に測定するためには、物理の目が必要となります。
講義のはじめに、物理学・宇宙地球科学輪講の概要についてお話しします。
私たちの身の回りの物質はクォークという素粒子からできています。クォークは、非常に強い結合力で相互作用しているので、そのふるまいを解析的に調べることは困難です。本講演では、クォークのふるまいを記述する量子色力学の基礎と、それをコンピュータによる数値計算で解く研究について紹介します。
近年、極小の電子回路を舞台として、量子力学的な効果を人間の手で制御しようという、人工量子系の研究が活発に行われています。人工量子系の多くは、半導体や金属薄膜を微細加工して作られる数nm〜数μm程度の小さいサイズのもので、メゾスコピック系と呼ばれることもあります。このようにサイズは小さいのですが、それらはいくつかの外部パラメータによって制御できるようにデザインされており、“小さな実験室”と呼ぶにふさわしい系となっています。このような系を用いることによって、電子の電荷・スピン・位相・電子間相互作用など、多彩な量子効果を人間の手によって自在に制御することが可能となってきています。
これまでに、私たちは、電子を一個ずつ制御できるような量子ドット(人工原子)や電子干渉計などを用いた実験などを行ってきました。最近では、高感度の電流ゆらぎ測定系を開発し、「ゆらぎの定理」と呼ばれる統計力学における基本原理の実験的な検証に成功しています。
この談話会では、メゾスコピック系の研究についてご紹介した後、電子干渉計を用いた私たちの研究についてご紹介します。
2012年7月4日に,質量の起源と考えられているヒッグス粒子と無矛盾な新粒子を発見したと欧州原子核研究機関が発表しました。ヒッグス粒子とは何か,そして,7月4日の発表内容について解説します。
近年、FeやAsなどを含む2次元的な結晶構造の化合物における超伝導が注目を集めています。これらの物質では従来のBCS理論では説明できない高い温度で超伝導が出現し、この超伝導は磁性ゆらぎなどが超伝導対形成に関係したエキゾチック超伝導である可能性が議論されています。本談話会では、鉄ニクタイド化合物の超伝導が、磁気的な量子臨界点における異常である可能性について紹介します。
東海村に完成した、大強度加速器施設 J-PARCと、そこで展開する物理について概説する。
2006年2月に打ち上げられた日本初の本格的赤外線天文衛星「あかり」は2011年11月に運用を終了した。「あかり」は2007年8月に冷媒である液体ヘリウムが消失するまで、9ミクロンから160ミクロンまでの6バンドでの全天サーベイと2ミクロンから160ミクロンにわたる広い赤外線の範囲で撮像及び分光の指向観測を行った。冷媒消失後も2ミクロンから5ミクロンの観測を継続した。「あかり」衛星の概要と、18ミクロンの全天サーベイ観測から発見された暖かい残骸円盤等の最近の成果を紹介する。
「我々の身の周りに存在する元素は、初期宇宙の構成要素からどのように形成されたのだろうか?」
これは、人類にとって極めて重要な命題であると考えられる。元素の形成とは原子核の形成であり、その実体は原子核の反応である。我々のグループでは、このような視点で捉えた原子核反応を宇宙核反応と呼び、その正確な描述に精力的に取り組んでいる。
本講演では、この宇宙核反応研究の最先端の話題として、炭素12の生成機構についての新しいシナリオを紹介する。この研究のポイントは、恒星内で飛び回る3つのヘリウム原子核が同時に衝突して一気に炭素12を形成するという、これまで起きないとされていた反応の寄与を見積もったことである。その結果、太陽の中心温度では、炭素12の生成量がこれまで知られていた値の1兆倍の10億倍となることがわかった。
生命の素材とも言うべき炭素12の生成に対する新しい理解の提示と、それを契機とする宇宙物理・原子核物理の研究成果の報告を行いたい。
今回の3/11地震はなぜ想定外だったのか? 事前に把握されていた情報、されていなかった情報を整理するとともに、今後に起きうる地殻変動(誘発地震)の可能性について説明する。
また、来たる東海-東南海-南海地震に向けて、現在、どのような地震研究・減災対応が進められているのかを紹介しつつ、地震を岩石の破壊と摩擦の物理といった視点で研究する意義を説明する。
小柴昌俊氏らが1980年代に始めたカミオカンデ実験は元々、素粒子の大統一理論が予想する陽子の崩壊を地下の巨大水タンクを使って見つけようというものであった。当時の大統一理論がスーパーカミオカンデ実験などによって完全に否定された現在、コライダー実験による精密測定やニュートリノ振動現象の発見などから、超対称性を入れた新たな大統一理論が注目を集めている。
ここでは、第二世代の電子であるミューオンが「フレーバー」を破って電子へと崩壊する現象を探索して、超対称大統一理論に迫ろうとする研究を紹介する。
世の中には、プラスチック等のように炭素で作られた分子性(有機)物質が満ちあれています。これらは、電気を流さない物だと、以前は信じられてきました。ところが、分子から電子を少し引き抜いたり加えたりすると、分子性物質が電気を流す金属になることが知られてきました。この分子で作られた金属は一方向しか電気を流さないなど、銅等の既知金属とは一風変わった特徴を持っています。
私達は、分子に金属的な性質だけではなく、磁気的な性質をも付与した物質を研究しています。このような分子性物質に磁石を近づけると、電気抵抗が大きく変化する巨大磁気抵抗効果が見出されました。巨大磁気抵抗効果は、 ハードディスクの磁気検出素子として利用されている有益な現象ですが、これまで無機材料でしか観測されていませんでした。本談話会では、分子性物質を手始めに強相関電子系における巨大応答現象の話を、わかりやすく紹介したいと思います。
宇宙が誕生してから137億年たちます。極限の高密度状態からはじまった宇宙は、最初一様で単純なものでした。やがて膨張する宇宙の中で多種多様な天体が生まれ、現在のような多彩な宇宙になりました。そのような宇宙の歴史について最新の研究成果を交えてお話します。
Bose粒子、Fermi粒子を共に扱うことができ、粒子間相互作用など様々な物質パラメータを自在に制御できる冷却原子気体は、それ自身の物性だけでなく、金属超伝導など様々な系に対する量子シミュレータとしての可能性についても関心が持たれています。 この談話会では、冷却Bose 原子ガス、Fermi原子ガスで実現している超流動、および、それに付随する現象のうち、Bose-Einstein凝縮、超流動性、Fermi粒子間相互作用の制御によるBCS-BECクロスオーバー、擬ギャップ現象、などについて、実験結果も紹介しながら、基礎的な量子統計力学の知識だけを前提に平易に解説します。
地表環境で生きている我々は地球の深部で起こっていることを直接見ることができません。しかし、近年の観測技術や高温高圧実験技術の進歩は地球のマントルや核といった極限環境下で起こっている現象を明らかにしつつあります。本談話会では地球最深部領域である「核」の構造と物性の研究を中心とした最新の研究結果を紹介します。
超低速(<5 m/s)の中性子(超冷中性子UCN)を物質容器や重力で閉じ込め、磁気共鳴から、電気分極(EDM)を観測する。
EDMは時間反転対称性の破れを引き起こし、宇宙での物質創成のかぎを握る。
太陽以外の恒星を回る惑星(系外惑星)は1995年に初めて発見されてから、これまでに800個以上見つかっている。本講演では、これら系外惑星がどのような方法で発見されたのか、またそれからどのような惑星だったのかを紹介する。そして、それらから分かりつつある系外惑星の形成シナリオについて解説する。
強い光を照射した半導体中では、同数の電子と正孔が多数共存する系(電子-正孔系)が実現される。この系が示す多彩な振る舞いについて紹介したい。
規則的に配列したナノ空間に閉じ込めた電子系の作製とその物性の実験的研究について紹介します。
また,中性子やミュオンなどの「量子ビーム」を用いた物性実験手法についても紹介します。
質量分析という計測手法を用いると物質の精密な質量を知ることができ、そこから得られる多様な情報は様々な分野で活用されています。本講演では、質量ごとの物質の分布情報を可視化できるイメージング質量分析という最新の技術を中心に、質量分析の研究について紹介します。
「物理法則を理解すれば,未来を知ることができる」 ......
かつての古典物理全盛時における「科学の勝利感」は,実は限定的であったことを人類は知った。それが,マクロな現象であっても,詳細な未来を予測することに大きな困難があることは,地震予知に関する多くの試みを指摘するまでもないだろう。一方で,我々は本質的に地震予知が不可能である,との結論にも至ってはいない。我々が知っている地震現象は,まだその一部に過ぎないとも思われる。
地震の予知・予測の為には,科学的に検証されうる「前兆的現象」が見いだされなければならない。最近注目されている大地震前の電離層異常現象とはどのようなものなのか,正しいのか? ならば考えられるメカニズムはどのようなものであろうか?
談話会では地震前の電磁気現象を巡って,講演者の行ってきた格子欠陥の磁気共鳴(ESR)研究,レーザーレーダーによる大気計測,また放射線,電磁場計測による地球電磁気現象の各面からその関連性を述べる。時間が許せば,福島の原発事故が,大気電場に与えた影響と地震前電磁気現象との関係についても述べたい。
近年開発の進んだ世界各国の大型レーザーを用いて宇宙で観測されている物理現象を解明しようという、レーザー宇宙物理研究が進められています。我々は、超新星残骸や地球磁気圏で観測されている、粒子間のクーロン衝突がほとんど無視できる無衝突プラズマ中での衝撃波、無衝突衝撃波に関する実験を中心に行っています。固体のターゲットにレーザーを照射する事によって対向する超音速のプラズマ流を発生させ、その相互作用によって無衝突衝撃波を生成しています。このようなレーザー実験の紹介をします。
原子核は陽子と中性子という二種類のフェルミオンからなる有限量子多体系です。しかしながら、天然に存在する原子核には中性子と陽子の組み合わせに強い制限があり、実質的に一次元の自由度に縛られています。
不安定核ビーム生成技術の発明によってこの束縛から解き放たれてから20余年がたち、新しい構造や現象が次々に明らかになりました。核物理研究センターの不安定核ビームラインの紹介も交えつつ不安手核研究の現状及び展望を概観したいと思います。
水滴がころころと転がり落ちるハスの葉の表面は、フッ素コート無しに強い撥水効果を実現させている。昆虫の複眼表面は、微小な突起の配列を利用して、光の反射を抑制している。このような自然界の生物が持つ工夫とその原理を学び取り、工学応用を目指すのがバイオミメティクスと呼ばれる研究分野である。その一例として、生物が利用する微細構造を用いた発色現象(構造色)について紹介する。
「力」、「物質」、「空間」、「時間」、これらを支配する法則は何か?統一的に理解することは可能か?
日本は世界の活火山の約7%が集中している火山地帯で、現在も複数の火山が噴火しています。皆さんが生きている間にも地図が書き換えられるような噴火を日本で何度も目撃することになるでしょう。
火山はなぜ爆発するのか?火山が爆発するとどんな危険があるのか?火山爆発に周辺住民は、そして科学者はどう対処すべきか?といった内容を、講演者が取り組んでいる伊豆大島噴火とカメルーン・ニオス湖爆発を例に挙げながらお話します。
統計力学の数値計算法として発展してきたモンテカルロ法(メトロポリス法)は、もともとカノニカル分布から状態を無作為に抽出するための手法だったが、1990年代以降、考え方が大きく変わり、物理的にはありえない確率分布を作り出しておいてそこからカノニカル分布や他の確率分布を再構築する手法が発展した。統計力学のアンサンブル概念を非物理的なものにまで拡張するというこの考え方は、今では統計力学を越えて統計学や情報科学でも広く使われている。
我々はこの手法の応用先として、「めったに実現しない珍しい状態の出現頻度を数える」という問題に注目している。「課せられた条件のもとでもっともありふれた状態が実現する」というのが熱力学第二法則の教えるところなので、そんな珍しい状態がなんの意味をもつのかという疑問もわくだろう。しかし、目をいったん生物に向けると、我々が目にしているものはそのような「珍しいもの」ばかりであることに気づく。たとえば、タンパク質はアミノ酸をつないだ高分子の中ではきわめて稀なものであるにもかかわらず、生命の機能は多くのタンパク質が担っている。また、4種のヌクレオチドをつないだ高分子のもっともありふれた状態は生命としての情報をもっていない。生命は進化によって作られた「極めて珍しい状態」なのである。
我々は、そのような珍しい状態が「実際にはどれほど珍しいか」を統計力学を拡張した手法によって計算することを目指している。この談話会では統計力学アンサンブルを拡張する手法の理論的な基礎を解説するとともに、いささか竜頭蛇尾気味ではあるが、珍しさを計算した実例として、自己回避酔歩の数を数える問題と魔方陣の数を数える問題を紹介する。いずれも、ランダムな探索では決して見つけられない極めて珍しい状態でありながら、その個数は観測可能な宇宙に存在する原子の数を遥かに超え、無量大数やGoogolをも超える大きなものである。